実数の連続性
導入
大学はじめの微分積分学では、最初に実数をきちんと定義する作業がある。実数を定義付けするときに大きく分けて3つの要素をまず最初に約束する。その約束とは
- 実数は可換体(≒四則演算ができる集合)である。
- 実数は全順序集合+α*1(≒不等号がちゃんとしている)の条件を満たしている。
- 実数は連続性を満たしている。
である。最初の2つは比較的簡単に理解しやすいが、最後の連続性の部分は間違えやすいところであるためこのページで解説する。
ところで、最初の2つは有理数でも満たしているため、連続性の性質は有理数にはないが実数にあるものということになる。つまり実数の連続性は「有理数と実数の違いはなにか?」ということを考えているというわけである。
間違った考え
間違えがちなことであるが、稠密性と連続性は違う。稠密性とは、について、なるが存在するという性質のことであるが、とすればよいため別に実数である必要はなくなってしまうのである。
連続性の定義
実数の連続性にはいくつかの同値な定義がある。この記事では以下の定義を採用する。
- 上に(下に)有界な実数の部分集合には、常に上限(下限)が存在する。
これを約束することで無事に実数を定式化することができた。ちなみにこれは有理数では成り立っていない。たとえば以下の集合を考える。
$$A=\{x\in \mathbb{Q}| x^2\lt 2\}$$
この集合は上に有界である。仮にの場合でであることがわかるからだ。しかしこの集合は有理数の範囲では上限は存在していない。
が無理数であることはおなじみのことであるだろう。そしての上限はであるため、この集合に対して上限が実数上に存在しているためには、という有理数でないものが実数上に存在している必要がある。
こうして無事に実数を定式化することに成功した。
同値な定義(コーシー列)
実数の連続性で大切なのは、それと同値な定義がどのようなものであるかを知ることである。よってそれの証明に長い時間が割かれる。結局として以下のような定義に帰着してしまう。
その性質については、まずはコーシー列を定義することから始まる。数列がコーシー列であるということは以下の性質を満たしていることである。
$$\forall \epsilon \gt 0, \exists N\in \mathbb{N}, n,m\gt N \Rightarrow |a_n-a_m|\lt \epsilon$$
そこでこのコーシー列で何が言えるのかというと、実は「コーシー列であることと、収束する数列であることは同値」であることが実数の連続性から導くことができる。証明は余裕があったら新しい記事にして書く予定である。
ところで、このコーシー列というものは、微分積分学の議論でよく使うことになる。何故ならば、普通の論法での数列の収束に比べて、数列がどこに収束するのかを考える必要がないためである。この重要な性質のため、演習問題などでは重宝されるらしい。
また、このコーシー列というものはまた別の考え方をすることができる。上記の式に出てくるというものを、ただの絶対値ではなく、との数直線上の距離として考えて、というように考えてみる。*2 そしてコーシー列の定義を「一般的な距離」に置き換えて考えてみる。というものもとしてしまおう。すると定義は以下のようになる。
$$\forall \epsilon>0,\exists N\in \mathbb{N}, n,m\geq N \Rightarrow d(a_n,a_m)\lt \epsilon $$
そうして距離関数が、「コーシー列⇔収束」を満たすようになるとき、この距離関数を「完備である」と定義する。残念ながらすべての距離関数が完備であることは言えない。完備性というものは重要な性質であるのだが、それがコーシー列によって定義されているということに注目してほしい。
小数展開と実数の関係
ところで実数の定義と聞いて最初に考えがちであるのは、無限小数展開で表すことのできる数といったところであろう。確かに間違ってはいないのだが微分積分学として使っていくには不十分な定義である。実数の小数展開とは以下のように定義すればいいだろう。簡単のための範囲で考える。
自然数について、n進展開を定義付けする。とは自然数の数列であり、全ての自然数kについて、を満たしていて、
$$r=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{a_k}{n^k}$$
となるとき、をの無限小数展開とする。
つまりは、小数展開で実数を表現するというものは、実数列の収束にまつわる定義から導かれる部分的なものに過ぎないのである。小数の桁の数はあくまで実数を表現しているにすぎないというわけだ。
ここから筆者の意見になってしまうのだが、ところで数学の不思議な性質としてよく語られるものにというものがあるが、これは何も不思議なものではなく、ごく自然な定理であると考えている。何故ならばとという記号は実数1を表現しているに過ぎないのである。つまりは、数列と実数に対して一対一の関係が示されているわけではないため、「一つの実数に対して、二種類以上の表現方法があっても不思議ではない」というわけだ。
脱線したので話をもとに戻すと、小数展開で実数を表現するということは、実数の核心的な部分には迫っていないため実数の定義とするのは不適切である。また、正規数についてわかっていることが少ないように、小数というものは数学的には扱いにくい。よって実数の連続性には結局上限やコーシー列などの定義が採用されているというわけである。