有限表現可能について

前提

群論についての基本的なこと(群、部分群、準同型など)を知っていればOK

ここでは、有限表現可能が"何をしようとしているのか"について説明するのが主な目的であり、その過程で有限生成にも軽く触れようと思っている。

生成とは

{G}を群としたとき、{a\in G}を任意に取ってくる。このとき、{a}から生成できる部分群を{\langle a\rangle}と表記して、以下のように定義する。

$$\langle a \rangle=\left\{a^n | n\in\mathbb{Z} \right\}$$

これはつまり、{a}を含む最小の部分群である。

一般に有限集合{S}を持ってきて、{\langle S\rangle}という表記もあり、以下のように定義する。

$$\langle S\rangle = \left\{x_1^{\pm 1}\cdots x_n^{\pm 1}|x_i\in S\right\}$$

これも{S}を含む最小の部分群と考えることができる。

 

ここで、{G}が有限生成可能とは、ある有限集合{S}が存在して、{\langle S \rangle=G}となることをいう。

自由群

 自由群とは、以下のような定義である。

{S=\{x_1,\ldots,x_n\}}を記号全体の集合とする。これに対してこの記号全体に対して積を考える。このとき自由群({F_n}という記号で表す)は、

$$F_n = \left\{{x_{i_1}}^{a_1}{x_{i_2}}^{a_2}\cdots {x_{i_m}}^{a_m}|a_j\in\mathbb{Z},i_{j}\neq i_{j+1},1\leq i_j\leq n\right\}\cup \left\{e\right\}$$

というように表記することができる。

まあ、なんのことなのかよく分から無さそうなので具体例で説明しよう。

適当に{S=\{りんご,ぶどう,すいか\}}とでもしておこう。

これに対応する部分群の成分を例として一つあげると、

$$りんご\cdot ぶどう\cdot りんご^2 \cdot すいか\cdot ぶどう$$

 というような形をしている。ここで、{りんご\cdot ぶどう}や、{ぶどう\cdot ばなな}のように、意味不明な掛け算をしているように見えてるが、あくまで形式上である。つまり、これらの積がどのような形をしているかは分からないし、考える必要がない。しかし{りんご\cdot りんご}のように同じものを掛ける場合は、{りんご^2}のようにまとめられるという話である。ようは計算式を表現している文字列と思えばいいだろう。また、ここでの積は文字列自体の結合であり、単位元は空文字列とすればよいだろう。

有限表現可能とは(定義)

有限表現についての定義をまずここに書く。この定義がどのような目的を持っているかについては、次節で説明する。

 群{G}が有限表現可能であるとは、ある有限集合{S\subset G}が存在して、{\langle S\rangle=G}かつ、Sから生成される自由群{F_n}{G}に対して生成される自然な写像{f:F_n\to G}を考えた時、(このとき、{f}準同型写像になる){\mathrm{Ker}f}が有限生成群であることをいう。

有限表現可能の気持ち

順番に説明しよう。便宜上{S=\{x_1,\ldots,x_n\}}ということにする。

まず、{S}が有限集合でなくてはいけないのは、おそらく無限集合だと気持ち悪くなるからである。(基礎論詳しい人に怒られそうなので詳しい説明は割愛する。)

次に、自然な写像がなんなのかというと、要は計算結果である。自由群の節で"自由群とは計算式を表現している文字列である"と説明していた。現に{F_n}を構成している文字列は{S}の集合と一致している。つまり、{S}の元を利用して計算式を作っているのだ。つまりこれの計算結果を電卓の如く求めた場合、それは{G}の元のどれかになる。その計算式と計算結果を対応させた写像だと思えば良い。*1

また、核(Ker)が有限生成という表現もある。これは先程の果物を例としたもので説明しよう。

そもそも表現が何をしようとしているかと言うと、計算式を計算するためのルールを決めているのである。

$$りんご\cdot ぶどう\cdot りんご^2 \cdot すいか\cdot ぶどう$$

という内容に対してたとえば{りんご\cdot りんご=e,すいか\cdot ぶどう=e}というように、ルール*2を決めてしまう。ルールの形式は具体的には、「これを計算したら単位元になる」というような文字列をリストアップしたような形となっている。すると、この式がルールに則ることで"計算"することができる。以下のように…

$$りんご\cdot ぶどう\cdot りんご^2 \cdot すいか\cdot ぶどう$$

$$=りんご\cdot ぶどう \cdot すいか\cdot ぶどう(\because りんご\cdot りんご=e)$$

$$=りんご\cdot ぶどう(\because すいか\cdot ぶどう=e)$$

 有限表現可能とは、この有限個の変換ルールだけで、群のどのような計算でも求めることができるということである。ここで「求めることができる」というのは、計算結果が同じになるような二種類の異なる計算式{A\neq B}が与えられたルールだけで互いに変換可能ということである。果物を例にすると、先程のルールでは

{りんご\cdot ぶどう,りんご^3\cdot ぶどう}

が等しいのだが、結果が等しいならばあるルール(ここでは{りんご^2=e})を適用させて変換可能ということである。逆を言ってしまえば、{りんご,りんご\cdot ぶどう}のように、どのようにルールを適用させても互いに変換できないならば、それは計算結果としても異なるということである。

有限群は有限表現可能

有限群は有限表現可能である。{G=\{x_1,\ldots,x_n\}}というようなものが群となっている時、{x_i\cdot x_j=y_{ij}}というような記号を用いて、(このとき、{y_{ij}=x_k}となるような{k}が存在するので、自由群の中では{y_{ij}\to x_k}というように置き換える){x_i\cdot x_j\cdot {y_{ij}}^{-1}=e}というようなルールを{n^2}個作ることができる。このルールによってどのような2項の計算でも求めることができるので、順番に計算結果を置き換える作業をすれば、もちろん計算結果を一つの文字として求めることができる。文字が違うならもちろん群の中の値としても違うので明らかに有限個のルールで表現することができている。

*1:電卓写像みたいな名前があってもいいかもしれない

*2:eは単位元である。