Ravi変換
概要
不等式の問題にはたまに、「を三角形の辺の長さとするとき…」という制約条件が出てくる。この制約は面倒くさいものである。何故ならは制約を満たすが、は制約を満たさない。後者の場合はもちろんが長すぎて三角形が作れないからなのだが、三角形が作れるという条件を整理すると以下のようになる。
$$\left\{\begin{array}{ccc}a,b,c&\geq&0\\-a+b+c&\geq&0\\a-b+c&\geq&0\\a+b-c&\geq&0\end{array}\right.$$
まあこれは三角不等式である。(逆に言えば三角不等式さえ満たしていれば三角形が作れる)
ちなみに下3つが条件を満たしていれば自然と1つ目の条件は満たされるので、一番上は不要である*1
この制約を簡単にするためにある特定の変数変換をすることをRavi変換という。
(ところで「Ravi変換」ってどう読むんでしょう?自分はとりあえず「ラヴィ変換」って読むことにしています)
Ravi変換とは
からへ変数変換をする
$$\left\{\begin{array}{ccc}2x&=&-a+b+c\\2y&=&a-b+c\\2z&=&a+b-c\end{array}\right.$$
このように変換すれば制約条件はと同値になる。それぞれの文字が三角不等式の各項に対応しているので当然といえば当然なのだが。(しかし答えを見れば当然と思えることほど、案外簡単にはひらめくことができないものである。)
逆変換はこんな感じ。
$$\left\{\begin{array}{ccc}a&=&y+z\\b&=&z+x\\c&=&x+y\end{array}\right.$$
Ravi変換後のその他パラーメータの表現
Ravi変換を行ったあとで、三角形についてのパラメータをを使って表すことにする。
一応説明するが、三角形ABCについて、としている。(ここで、は線分XYの長さである。)のようなパラーメータについても「一般的な」意味が付けられているはずである。
面積
三角形の面積を辺の長さから計算するといえばやっぱりヘロンの公式だろう。
とすれば、三角形ABCの面積は
$$S=\sqrt{t(t-a)(t-b)(t-c)}$$
となる。ここで、
$$t=\frac{y+z+z+x+x+y}{2}=x+y+z$$
であり、なので、についても同様に計算すると、
$$S=\sqrt{xyz(x+y+z)}$$
ヘロンの公式はとても複雑な形をしているが、Ravi変換をすることでとても簡単な形になるのである。
外接円の半径
この公式はあまり知られていないのだが(教科書の練習問題レベル?)
外接円の半径,面積について、
$$abc=4RS$$
となる。
一応証明すると、正弦定理,2辺と角による面積公式について、を消すと、となる。よって両辺整理すればOK
よってこの式をについて解くと、
$$R=\frac{abc}{4S}$$
となる。これをRavi変換すると(にはさっきの結果を代入する)
$$R=\frac{(x+y)(y+z)(z+x)}{4\sqrt{xyz(x+y+z)}}$$
となる。一見複雑な形に見えるが、を(変換した)辺の情報で表せただけでも十分である。というよりRavi変換をしないままだと(ヘロンの公式のせいで)目も当てられないほど複雑になる。
内接円の半径
これについては教科書レベルの公式が使える。
を内接円の半径とすると、
$$S=\frac{1}{2}(a+b+c)r$$
となる。図を書くのが面倒だし、教科書にも載ってる(はずの)有名な公式なので証明は省く。ここでは、「内心から魚の開きのように広げて等積変形すると、底辺がで高さがの三角形となる」とだけ言っておこう。
よってこれをについて解いてRavi変換すると、
$$r=\frac{\sqrt{(x+y+z)xyz}}{x+y+z}$$
よって、
$$r=\sqrt{\frac{xyz}{x+y+z}}$$
となる。外接円の半径よりは簡単な式になった
傍接円の半径
一応明記しておくが、傍接円は"3つ"存在する。それぞれについて求める。
傍接円の半径についてはと表記しておこう。
証明は省くが、
$$S=\frac{1}{2}(-a+b+c)r_a$$
となる。
よって、これをRavi変換すると
$$r_a=\sqrt{\frac{yz(x+y+z)}{x}}$$
となる。同様にして、
$$r_b=\sqrt{\frac{xz(x+y+z)}{y}},r_c=\sqrt{\frac{xy(x+y+z)}{z}}$$
となる。
実用例
ここではRavi変換の使用例を3つ紹介する。
1.三角形の周囲の長さが一定のときの面積の最大値は?
三角形の周囲の長さはである。の最大化問題については、斉次化しての最大化を考える。
$$\frac{S}{L^2}=\frac{\sqrt{xyz(x+y+z)}}{4(x+y+z)^2}$$
よって、
$$\frac{S}{L^2}=\sqrt{\frac{xyz}{16(x+y+z)^3}}$$
ここで、両辺共に正の値なので二乗してもよくて、
$$\frac{S^2}{L^4}=\frac{xyz}{16(x+y+z)^3}$$となる。
これについて、相加相乗平均の不等式
$$x+y+z\geq 3\sqrt[3]{xyz}$$
を適用させると、
$$\frac{S^2}{L^4}\leq \frac{(x+y+z)^3}{27\cdot 16(x+y+z)^3}=\frac{1}{432}$$
よって、
$$S^2\leq \frac{L^4}{432}$$
よって、
$$S\leq \frac{\sqrt{3}}{36}L^2$$
となる。
等号成立条件はもちろん相加相乗平均不等式の等号成立条件であり、
つまりはこのとき、となるので三角形ABCが正三角形であるときに不等式の等号が成立する。よって面積最大となる。
2.外接円の半径が一定のもとでの内接円の半径の最大値は?
斉次化しての取りうる値を考える。Ravi変換すると、
$$\frac{r}{R}=\sqrt{\frac{xyz}{x+y+z}}\cdot \frac{4\sqrt{xyz(x+y+z)}}{(x+y)(y+z)(z+x)}$$
となるため、
$$\frac{r}{R}=\frac{4xyz}{(x+y)(y+z)(z+x)}$$
となる。このとき、相加相乗平均より、
$$\left\{\begin{array}{ccc}y+z&\geq&2\sqrt{xy}\\z+x&\geq&2\sqrt{zx}\\x+y&\geq&2\sqrt{xy}\end{array}\right.$$
となるが、これを辺ごとに掛け合わせることで
$$8xyz\leq (x+y)(y+z)(z+x)$$
となる。
よって、
$$\frac{r}{R}\leq \frac{4(x+y)(y+z)(z+x)}{8(x+y)(y+z)(z+x)}=\frac{1}{2}$$
となる。
等号成立条件については、各不等式の等号成立条件を合わせればいい。
3つの相加相乗平均不等式を使ったため、よって、
これもとなるため、正三角形のとき等号が成立し、と最大となる。
3.Weitzenbockの不等式(2019東工大数学問1,1961 IMO Problem 2)
三角形ABCについて、面積をとして、辺の長さをとすると、
$$a^2+b^2+c^2\geq 4\sqrt{3}S$$
となる。これはこの記事を書いているときではなく、先日思いついた方法なのだが、たとえRavi変換を知っていたとしても、プレッシャーのある試験中にこれを思いついたら天才と認定してもいいと思う。
これをRavi変換すると
$$(x+y)^2+(y+z)^2+(z+x)^2\geq 4\sqrt{3xyz(x+y+z)}$$
となる。左辺についてコーシー・シュワルツの不等式を適用させると
$$\left\{(x+y)^2+(y+z)^2+(z+x)^2\right\}\left\{1^2+1^2+1^2\right\}\geq (x+y+y+z+z+x)^2$$
よって、
$$(x+y)^2+(y+z)^2+(z+x)^2\geq \frac{4}{3}(x+y+z)^2$$
となる。
このとき、を以下のように分割する。
$$x+y+z=\frac{3x}{4}+\frac{3y}{4}+\frac{3z}{4}+\frac{x+y+z}{4}$$
これについて、みんな大好き相加相乗平均の不等式を適用させると(n回目)
$$\frac{3x}{4}+\frac{3y}{4}+\frac{3z}{4}+\frac{x+y+z}{4}\geq 4\sqrt[4]{\frac{27}{256}xyz(x+y+z)}$$
よって両辺ともに正であることから二乗できるので
$$(x+y+z)^2\geq 16\frac{3\sqrt{3}}{16}\sqrt{xyz(x+y+z)}=3\sqrt{3}S$$
よって、
$$\frac{4}{3}(x+y+z)^2\geq 4\sqrt{3}S$$
先程コーシー・シュワルツで示したものと組み合わせると
$$(x+y)^2+(y+z)^2+(z+x)^2\geq \frac{4}{3}(x+y+z)^2\geq 4\sqrt{3}S$$
よって
$$(x+y)^2+(y+z)^2+(z+x)^2\geq 4\sqrt{3}S$$
となるため、
$$a^2+b^2+c^2\geq 4\sqrt{3}S$$
が成立する。
等号成立条件については、2回の不等式評価それぞれについて考えればよい。
コーシー・シュワルツについてはよりである。
相加相乗平均については、より、である。
よってよりなので、正三角形のときに等号が成立する。
最後に
Ravi変換は完成したものを見てみると一見シンプルなものであるが、実際にこのテクニックを思いつくのはとても難しい。これを知っている人の中で、自分で思いついたという人は1割にも満たないのではないだろうか?(実際筆者もこれはネットの記事で知った。)
これを知っていれば三角形についての問題がシンプルになってすごいので、人々はもっとこれの存在を知っておくべきだろう。Ravi変換をすこれ
*1:との両辺を足すことでとなる。よっては正となる。についても同様にすればOK
*2:この公式だけに当てはまることではないが、公式は商の形より積の形で覚えたほうがいいだろう。つまりではなく、として理解したほうがいいのである。積の形なら文字の順番を間違えても結果としては同じなので。とは言っても変に公式覚えるよりは導出ができるようになるのがいいよね
*3:高校数学だと間違えがちなので注意なのだが、最大値問題を不等式で解いた場合、等号成立条件を見直すくせが必要である。例えばのときのの最小値を求めたい場合、よりとなるため、「最小値は8だ!」としてはいけない。この不等式は確かに正しいのだが、等号成立条件を満たすの値は存在しないため、式の値が8になることはないのである。よって本当の最小値は8よりも大きくなる。ちなみにこの問題は展開してとしてについて相加相乗平均を使えばよい。この場合はとなるのだが、実際にとすれば等号成立する。よって等号成立条件を満たす値が存在するため、という条件のもとで、元の式は最小となるのである。
*4:なぜこのように分割するかは理由がある。まず最終的に(和の形≧積の形)を示す必要があるため相加相乗平均の不等式を使うことが思い浮かぶ。積の形なのでをつかった線形な式としてを表現したかった。さらに最終的に等号成立条件が満たされる場合が存在する必要があった。よってを満たすが存在するという条件を考えると、となるのである。