実数とは何か

導入

・実数とは無理数有理数を合わせたものである

無理数とは、実数のうち有理数ではないものである*1

と堂々巡りになってしまうようでは良くないので、実数とは何かについて説明していこう。

余談

ところで、高校数学では堂々巡りの定義をしているということは無いようである。実際には「実数というものは無限小数全体の集合」であり、「無理数は循環しない無限小数」という扱いをしているっぽい。

ちなみにこの無理数の定義が正しいことは「有理数⇔整数,有限小数,循環小数」を示せば確認することができる。過去記事参照 

shakayami-math.hatenablog.com

 

ちなみに上記の記事も今から説明する実数の定義を前提として書かれている。無限小数全体の空間を定義して形式的な演算を考える手法もありそうだが、とりあえず以降ではメジャーな定義について紹介しようと思う。

 

実数と有理数との違い

一言で言えば完備かどうかである。実数は完備だが有理数は完備ではない。完備については今から説明する。

 

完備とはざっくり説明すると「ある数列の収束先が存在することを保証する」である。ここで、「ある数列」とは何でも良いわけではなく、例えば{a_n=n}みたいなのはダメである。キーワードを加えて補足すると「コーシー列の収束先が存在することを保証する」となる。

コーシー列とは定義を書くとこうなる。

$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists N\in\mathbb{N},n,m\geq N\Rightarrow |a_n-a_m|\lt \varepsilon$$

 

…ここでもある程度詳しく解説するが、ε-δ論法やε-N論法に慣れるという意識が必要だろう。

shakayami-math.hatenablog.com

 

 ここで、収束する数列は必ずコーシー列になることがわかる。

{\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha}ならば、{\varepsilon \gt 0}に対して定めた{N\in\mathbb{N}}について、{n,m\geq N}ならば

$$|a_n-\alpha|\lt \varepsilon/2,|a_m-\alpha|\lt\varepsilon/2$$が言えるので、三角不等式から

$$|a_n-a_m|=|(a_n-\alpha)-(a_m-\alpha)|\leq |a_n-\alpha|+|a_m-\alpha|\lt \varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon$$

となる。

完備性が言いたいのはこれの逆、すなわち「コーシー列なら収束する」である。

実数が何かはまだ分からないが、少なくとも有理数全体の集合{\mathbb{Q}}はこの性質を満たしてはいない。 

例えば{a_n=\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k^2}}としたとき、{n\gt m\gt N}ならば

$$|a_n-a_m|=\frac{1}{(m+1)^2}+\cdots+\frac{1}{n^2}\leq \frac{1}{m(m+1)}+\cdots+\frac{1}{n(n-1)}=\frac{1}{m}-\frac{1}{n}\lt \frac{1}{N}$$

より、{\frac{1}{N}\lt\varepsilon}となるように「{\varepsilon}に対して{N}を定めれば」コーシー列になることがわかる。ネタバレするとこれはバーゼル問題と言って{a_n}{\frac{\pi^2}{6}}に収束するのだけど、何が問題なのかと言うと「各項が有理数で構成されている(コーシー列であるような)数列がある有理数の値に収束しない」ということである。とりあえず実数では有理数で起きたこのような問題を回避したいのである。とりあえずは「各項が実数で構成されている(コーシー列であるような)数列は必ずある実数の値に収束する」となるようなことを目指したいのである。そのために完備化という作業をするのである。有理数から実数に世界を広げることで先程の例に出てきた{\frac{\pi^2}{6}}等も新たに仲間に加わることで、数列の収束先が保証されているような、都合の良い世界ができるわけである。これは以降の解析学の分野をやる上で必要不可欠なものである。

 

 

実数の構成と条件を満たしていることの証明

ここで問題が発生する。「実数は有理数を完備化したもの、では実際に有理数を完備化したような集合を具体的に構成するようなことはできるのか?」

つまりは、「要求する条件をすべて満たしているような、都合のいい相手は存在するのだろうか?」みたいな疑問である。これについてはこれから説明するが、結論から言えば存在する。今からは具体的に「たくさんの条件をすべて満たしているような理想的な相手=実数」を具体的に構成し、それが本当に要求する条件を満たしているか見ていこう。

 

実数の構成方法

まず、有理数列からなる集合を持ってくる。この集合の元は{(a_n)_{n=1}^{\infty}}というような表記ができる。また、これは「{\mathbb{N}}から{\mathbb{Q}}への写像全体の集合」と考えることができるので、(つまり、{n\in\mathbb{N}}に対して{a(n)=a_n\in\mathbb{Q}}であるといった感じである。){\mathrm{Map}(\mathbb{N},\mathbb{Q})}とでも書いておく。

さて、{X}はこれの部分集合となる。具体的に書くと

$$X:=\{(a_n)_{n=1}^{\infty}\in \mathrm{Map}(\mathbb{N},\mathbb{Q})|(a_n)_{n=1}^{\infty}はコーシー列\}$$

であり、先程のコーシー列の定義を入れると

$$X:=\left\{(a_n)_{n=1}^{\infty}\in \mathrm{Map}(\mathbb{N},\mathbb{Q})\middle| \forall \varepsilon \gt 0,\exists N\in \mathbb{N},n,m\geq N\Rightarrow |a_n-a_m|\lt \varepsilon\right\}$$

となる。同値関係{\sim}については以下のように定義する。

$$ (a_n)_{n=1}^{\infty}\sim (b_n)_{n=1}^{\infty}\Leftrightarrow \lim_{n\to\infty}(a_n-b_n)=0$$

ε-δ論法を使って厳密に書けば以下の通りになる。

$$ (a_n)_{n=1}^{\infty}\sim (b_n)_{n=1}^{\infty}\Leftrightarrow \left(\forall \varepsilon \gt 0,\exists N\in\mathbb{N},n\geq N\Rightarrow |a_n-b_n|\lt\varepsilon \right)$$

 

ここで、実数とは同値類{X/\sim}のことを言うのである!

 

注:同値類の定義については以下の記事を参照

 

shakayami-math.hatenablog.com

 

これを実数のよく使われる記号を使って表すと、「{\mathbb{R}=X/\sim}」と書ける。

以降では、{X/\sim}の元は同値類ということで{[(a_n)_{n=1}^{\infty}]}というような表記をすることにしよう。

実数の性質を満たしているかの確認するためには、①可換体、②全順序集合、③完備性の3つを示すのが必要である。ここで、①と②は有理数でも満たしている性質なのでかいつまんで説明する。

可換体であることの証明

この集合に対して、四則演算は以下のように定義する。

$$[(a_n)_{n=1}^{\infty}]+[(b_n)_{n=1}^{\infty}]:=[(a_n+b_n)_{n=1}^{\infty}]$$

$$[(a_n)_{n=1}^{\infty}]-[(b_n)_{n=1}^{\infty}]:=[(a_n-b_n)_{n=1}^{\infty}]$$

$$[(a_n)_{n=1}^{\infty}]\times[(b_n)_{n=1}^{\infty}]:=[(a_n\times b_n)_{n=1}^{\infty}]$$

$$[(a_n)_{n=1}^{\infty}]\div[(b_n)_{n=1}^{\infty}]:=[(a_n\div b_n)_{n=1}^{\infty}]$$

ただし4つめの割り算において{[(b_n)_{n=1}^{\infty}]}は0ではない…と言いたいところだがまずは0を定めよう。

一般に有理数{q}に対して、{q:=[(q)_{n=1}^{\infty}]}と定めればよい。つまり、有理数{q}に対しては「各項が{q}であるような、{q}が永遠に続く数列」を具体的に持ってきて、その同値類を考えれば良いことになる。(用語を使うと、{q}が永遠に続く数列を代表元に置く、という表記になる。)

結局の所「{[(b_n)_{n=1}^{\infty}]}が0でない」というのは{(b_n)_{n=1}^{\infty}}{(0)_{n=1}^{\infty}}と同値ではない。つまり{\lim_{n\to\infty}b_n\neq 0}ということになる。

 

さて、この定義だけでは不十分で、さらにwell-defined性の証明もしなくてはいけない。

具体的には{(a_n)_{n=1}^{\infty}\sim (b_n)_{n=1}^{\infty}}かつ{(x_n)_{n=1}^{\infty}\sim (y_n)_{n=1}^{\infty}}ならば、

$$[(a_n)_{n=1}^{\infty}]+[(x_n)_{n=1}^{\infty}]=[(b_n)_{n=1}^{\infty}]+[(y_n)_{n=1}^{\infty}]$$

 でなくてはいけないので、つまりは

$$[(a_n+x_n)_{n=1}^{\infty}]=[(b_n+y_n)_{n=1}^{\infty}]$$

を満たしていなくてはいけない。

これを示すためには

$$(a_n+x_n)_{n=1}^{\infty}\sim (b_n+y_n)_{n=1}^{\infty}$$

を示すことになるが、これは{\lim_{n\to\infty}(a_n+x_n-b_n-y_n)=0}と同値であり、aとb,xとyの同値性から導ける。引き算については同じ。

掛け算については{(a_nx_n-b_ny_n)=a_n(x_n-y_n)+(a_n-b_n)y_n}として

$$\lim_{n\to\infty}a_n(x_n-y_n)+(a_n-b_n)y_n=\left(\lim_{n\to\infty}a_n\right)\times 0+0\times\left(\lim_{n\to\infty}y_n\right)=0$$よりOKである。

割り算については{\frac{a_n}{x_n}-\frac{b_n}{y_n}=\frac{a_ny_n-b_nx_n}{x_ny_n}}として、{a_ny_n-b_nx_n}について掛け算で示したのと同じようにすればOK

ところで、先程の証明には極限が四則演算を保存することの性質が使われている。

$$\lim_{n\to\infty}(a_n+b_n)=\lim_{n\to\infty}a_n+\lim_{n\to\infty}b_n,\lim_{n\to\infty}(a_n-b_n)=\lim_{n\to\infty}a_n-\lim_{n\to\infty}b_n,\ldots$$

あと暗黙で使われていたものといえば、{X}の元は全て有界な数列であることと、はさみうちの原理であろう。両方ともに掛け算の段階で暗黙に使われていた。

ところで、 この性質は実数の完備性に関係なく成立するため、循環論法を心配する必要はない。そして今までに示したことは演算がwell-definedであることだけで、これ以降に分配法則や結合法則などを示していかなければいけない。これは省略するが、同じような方法で行けるはずである。*2

全順序であることの証明

まずは{X/\sim}に順序関係を定める。

{A=[(a_n)_{n=1}^{\infty}],B=[(b_n)_{n=1}^{\infty}]}に対して{A\lt B}であるとは、

$$A\lt B\Leftrightarrow \left(\exists \varepsilon\gt 0,\exists N\in \mathbb{N},n\geq N\Rightarrow b_n-a_n\geq \varepsilon\right)$$

また、{A\leq B}であるとは、「{A\lt B}または{A=B}」と定める。

これもまたwell-defined性を示す必要がある。

{(a_n)_{n=1}^{\infty}\sim (x_n)_{n=1}^{\infty},(b_n)_{n=1}^{\infty}\sim(y_n)_{n=1}^{\infty}}

について代表元を別に取ってきても同じように性質を持っているかを確認する必要がある。

まずは以下のような性質が成り立っている。

$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists N_1=N_1(\varepsilon)\in \mathbb{N},n\geq N_1\Rightarrow |a_n-x_n|\lt \varepsilon$$

$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists N_2=N_2(\varepsilon)\in \mathbb{N},n\geq N_2\Rightarrow |b_n-y_n|\lt \varepsilon$$

 {A\lt B}の定義に出てきた{\varepsilon,N}を持ってくる。

ここで、{N_1=N_1(\varepsilon/3),N_2=N_2(\varepsilon/3)}と定めると,{N_0=\max\{N,N_1,N_2\}}とおいたとき、{n\geq N_0}ならば

$$y_n-x_n=(y_n-b_n)+(b_n-a_n)+(a_n-x_n)\geq (-\varepsilon/3)+\varepsilon+(-\varepsilon/3)=\varepsilon/3$$

となるため、{\varepsilon_0=\varepsilon/3}とおくと、{(\varepsilon,N)\to(\varepsilon_0,N_0)=(\varepsilon/3,\max\{N,N_1,N_2\})}と定めれば、同じように真の大小関係についての性質を満たす。よって{A\lt B}の定義がwell-definedであることが示された。

可換体のときと同じように、これ以降にも全順序や順序が和について保存されることなどの証明をすると晴れて順序についても実数に満たされるべき要素が満たされていることがわかる。これも長くなるので省略する。

完備性についての証明

ここからが本番である。ちなみにコーシー列の定義には絶対値が出てくるが、その絶対値を定義するためにはまずは順序を定めなければいけないので、今までの解説は重要なものであった。本当は可換体+全順序の実数16の性質全てについて証明がしたいところだったが、泣く泣く省略することにした。

収束性の定義をしよう。

{X/\sim}上の点列{\{[(a_n^{(m)})_{n=1}^{\infty}]\}_{m=1}^{\infty}}{[(b_n)_{n=1}^{\infty}]}に収束とは以下のように定義をする。

$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists M\in\mathbb{N},m\geq M\Rightarrow |[(a_n^{(m)}-b_n)_{n=1}^{\infty}]|\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]$$

絶対値についての部分を書き換えると以下のようになる。

$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists M\in\mathbb{N},m\geq M\Rightarrow [(a_n^{(m)}-b_n)_{n=1}^{\infty}]\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]\mathrm{and} [(b_n-a_n^{(m)})_{n=1}^{\infty}]\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]$$

 *3

同じようにコーシー列の定義もしよう。 

{X/\sim}上の点列{\{[(a_n^{(m)})_{n=1}^{\infty}]\}_{m=1}^{\infty}}がコーシー列であるとは以下のように定義をする。

$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists M\in\mathbb{N},m_1,m_2\geq M\Rightarrow |[(a_n^{(m_1)}-a_n^{(m_2)})_{n=1}^{\infty}]|\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]$$

 同じように絶対値を言い換えると

$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists M\in\mathbb{N},m_1,m_2\geq M\Rightarrow [(a_n^{(m_1)}-a_n^{(m_2)})_{n=1}^{\infty}]\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]\mathrm{and}[(a_n^{(m_2)}-a_n^{(m_1)})_{n=1}^{\infty}]\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]$$

 となる。

目標としては「コーシー列が収束すること」を示したいので、そのためには収束先(の代表元)を具体的に構成し、それが実際に収束先になっていることを示すこととなる。

以降では{(a_n^{(m)})_{n=1}^{\infty}}はコーシー列となっている。

まずは{\varepsilon\gt 0}を固定しよう(それに対応して{M(\varepsilon)}も固定されて定まる。)すると任意の{m_1,m_2\geq M}に対して、「ある{\delta=\delta(m_1,m_2)\gt 0,N=N(m_1,m_2)\in\mathbb{N}}が存在して、{n\geq N}ならば{|a_n^{(m_1)}-a_n^{(m_2)}|\leq \varepsilon-\delta}」が成立することになる。

これと同時に、{(a_n^{(m)})_{n=1}^{\infty}}{m\in\mathbb{N}}についてコーシー列となるため、*4以下が成立する。

$$\forall \varepsilon_0\gt 0 \exists N_m=N_m(\varepsilon_0),n_x,n_y\geq N_m\Rightarrow |a_{n_x}^{(m)}-a_{n_y}^{(m)}|\lt \varepsilon_0$$

 

ここで、実際に収束先となるような{(b_n)_{n=1}^{\infty}}を構成する。実際に書き下ろすと以下のようになる。(天下り注意)

$$b_n=a_{c_n}^{(n)},c_n=N_n\left(\frac{1}{n}\right)$$

{b_m}{a^{(m)}}の中から1つ項を取ってくるように構成する。そしてその取り方は{a^{(m)}}{n\to\infty}での収束する速度に依存している。これが実際に収束先の代表元の1つになっていることを示そう。

今から示したいことは{a_{n}^{(m)}}{m\to\infty}{b_n}に収束していることで、これをεなどを使って表すと以下の通りとなる。

今から示すもの:

$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists M_0\in\mathbb{N},m\geq M_0\Rightarrow \left[\exists \delta_m\gt 0,\exists K_m\in\mathbb{N},n\geq K_m\Rightarrow |a_n^{(m)}-a_{c_n}^{(n)}|\lt \varepsilon-\delta_m\right]$$

(注:{X/\sim}の順序を定義する時に出てきた記号εが、ここでは記号δに置き換わっている)

以下証明:

{\varepsilon}を任意に取ってくる。このとき、

$$M_0=\max\left\{M\left(\frac{\varepsilon}{3}\right),\mathrm{ceil}\left(\frac{3}{\varepsilon}\right)\right\}$$

と定める。*5

{M_0}{a^{(m)}}{m\to\infty}の収束する速度に依存している。この時、{m\geq M_0}なる任意の{m\in\mathbb{N}}に対して、

$$\delta_m=\frac{\varepsilon}{3}-\frac{1}{m}$$

$$K_m=\max\left\{m,N_m\left(\frac{\varepsilon}{3}\right)\right\}$$

と定める。ここで、{\delta_m\geq \frac{\varepsilon}{3}-\frac{1}{M_0}\gt 0}となっている。

ここで、{n\geq K_m}を任意に取ってくる。

また、{k}

$$k=\max\left\{N_m\left(\frac{\varepsilon}{3}\right),N(n,m),c_n\right\}$$

と定める。

このとき、三角不等式より

$$|a_n^{(m)}-a_{c_n}^{(n)}|\leq |a_n^{(m)}-a_k^{(m)}|+|a_k^{(m)}-a_k^{(n)}|+|a_k^{(n)}-a_{c_n}^{n}|$$

となる。ここで、

{n,k\geq N_m(\varepsilon/3)}より、{|a_n^{(m)}-a_k^{(m)}|\lt\frac{\varepsilon}{3}}となる。

{n\geq m\geq M(\varepsilon/3)}であり、これに対して{\delta=\delta(n,m)\gt 0,N=N(n,m)\in\mathbb{N}}が存在して,このとき{k\geq N(n,m)}であるため、{|a_k^{(n)}-a_k^{(m)}|\lt \frac{\varepsilon}{3}-\delta(n,m)\lt \frac{\varepsilon}{3}}

{k\geq c_n\geq N_n\left(\frac{1}{n}\right)}より、{|a_k^{(n)}-a_{c_n}^{(n)}|\lt \frac{1}{n}\leq\frac{1}{m}}となる。最後の不等式は{n\geq K_m\geq m}から出てくる。

これらの不等式評価により、

$$|a_n^{(m)}-a_k^{(m)}|+|a_k^{(m)}-a_k^{(n)}|+|a_k^{(n)}-a_{c_n}^{n}|\lt \frac{\varepsilon}{3}+\frac{\varepsilon}{3}+\frac{1}{m}$$

となるため、

$$|a_n^{(m)}-a_{c_n}^{(n)}|\lt \frac{\varepsilon}{3}+\frac{\varepsilon}{3}+\frac{1}{m}\leq \varepsilon-\delta_m $$

となる。よって示したいものを示すことができた。

あとがき

…と、(途中省略をするようなことがあったけど)このような長い道のりを通ってくることで無事実数を構成することができて、「都合のいい相手」が無事に存在することが分かった。実数とは何か、というという問いは数学をやる上でもあまり気にしないものだが、実際に考えてみると思ったより奥が深いものであることがわかる。たまには常識を疑う姿勢を持つのも必要なのかもしれない。

*1: 無理数の定義を単に「有理数ではないもの」とするとリンゴ、バナナ、人間や地球も無理数になってしまって良くないので少なくとも「実数のうち有理数ではないもの」としなくてはいけない

*2:ちなみに可換体であることを示すためには、①和について可換群であること②積について可換群であること③分配法則を満たすこと④1≠0であることの4つを示す必要がある。可換群であることは「結合法則単位元の存在、逆元の存在、交換法則」の4つなので合計で4+4+1+1=10個の性質を示すことになる。

*3:この変換は、xの絶対値が「xと-xのうちの大きい方」と等しくなることと、max(x,y)<zは「x<zかつy<z」とも同値になることから言える。

*4:そもそも全体集合がコーシー列全体の集合としているため当然のこと

*5:ceilは天井関数。小数点以下切り上げをして整数にする関数である。