ルベーグ積分の使用例②

概要

ルベーグ積分の使用例として、ある問題を解説していきたいと思います。

 

問題

{(X,\mathcal{F},\mu)}を測度空間とする。{X}上の可測関数の列{f_n}があって、{f_n\to f}に各点収束する。{c\gt 1}を満たす実定数{c}について

$$A_n=\{x\in X| |f_n(x)|\leq c |f(x)|\}$$

と定めたとき、

$$\lim_{n \to\infty}\int_{A_n}f_n d\mu=\int_X fd\mu$$

となることを示せ。

材料

①非負とは限らない関数を積分する場合は{f(x)=f_+(x)-f_-(x)}と分解して各項ごとの積分を計算すればよい

ここで、

$$f_+(x)=\max\{f(x),0\},f_-(x)=\max\{-f(x),0\}$$

である。

②領域が限られた場合の積分は単関数をかければ良い。つまり、

$$\int_{A}f_n d\mu=\int_X f_n(x)\mathbb{1}_{A}(x) \mu(dx)$$

ここで、

$$\mathbb{1}_{A}(x)=\left\{\begin{array}{cc}1&x\in A\\0&x\notin A\end{array}\right.$$

である。

 ③ルベーグの収束定理というものがある。

{(X,\mathcal{F},\mu)}:測度空間と{f_n}:可測関数の列とする。

このとき、{f_n}{f}にほとんど至るところで収束してかつある{g}という関数について、

$$|f_n(x)|\leq g(x)(\forall x\in X,\forall n \in\mathbb{N}),\int_X g d\mu\lt \infty$$

が成立するならば、

$$\lim_{n\to\infty}\int_X f_n(x)\mu(dx)=\int_X f(x)\mu(dx)$$

となる。

 {g(x)}が存在していることが何よりも重要である。(そこは気をつけないといけない。)

{g(x):=\sup_{n\in \mathbb{N}}|f_n(x)|}としたときに{g(x)}が可積分でないならばルベーグの収束定理は使用不可能と判断して他の方法を考えるのが得策だろう。

また、対偶を言えば上記の等式が成り立たないのならお目当ての{g(x)}は存在しないという証拠にもなる。

解答

目標としては、 $$f_n(x)\mathbb{1}_{A_n}(x)$$という関数列に対してルベーグの収束定理を使いたいところである。{A_n}の条件がうまい具合に作用しているので、{g(x)=c|f(x)|}とすればうまく行きそうな気がする。 とそのような方針で大丈夫であるが、少し注意しなければいけない点がある(後述)

①各点収束性について

注意しなければいけない点というのは、 {f(x)=0}かそうでないかで場合分けするべきだということである。というわけで場合分けしてやってみる

(i) {f(x)\neq 0}の場合について

ここでε-N論法を使って議論してみる

ここではとりあえず{\epsilon=\frac{c-1}{2}|f(x)|}としてみる。

 すると{\epsilon}と対応するある{N\in \mathbb{N}}が存在して

{N\leq n}のときに{|f_n(x)-f(x)|\lt \epsilon}となって、

$$f(x)-\frac{c-1}{2}|f(x)|\lt f_n(x)\lt f(x)+\frac{c-1}{2}|f(x)|$$

となるため、

$$-|f(x)|-\frac{c-1}{2}|f(x)|\lt f_n(x)\lt |f(x)|+\frac{c-1}{2}|f(x)|$$

 より、

$$|f_n(x)|\lt \frac{c+1}{2}|f(x)|\lt c|f(x)|$$

となる。よってこのとき{x\in A_n}となる。

十分大きい{n}を対象にして考えたとき

$$f_n(x)\mathbb{1}_{A_n}(x)=f_n(x)\to f(x)(n\to\infty)$$

となる。

(ii){f(x)=0}のとき

{f_n(x)\neq 0}ならば{|f_n(x)|\gt 0}より{x\notin A_n}となる。よってこのとき

$$f_n(x)\mathbb{1}_{A_n}(x)=f_n(x)\cdot 0=0$$

となる。

{f_n(x)=0}ならば

$$f_n(x)\mathbb{1}_{A_n}(x)=0\cdot \mathbb{1}_{A_n}(x)=0$$

となる。よって

$$f_n(x)\mathbb{1}_{A_n}(x)=0\to 0=f(x)(n\to\infty)$$

となる。

 

(i)(ii)を考慮すれば、{f_n(x)\mathbb{1}_{A_n}(x)}{f(x)}に各点収束することがわかる。

 

 

 

②優関数の存在について

{g(x)=c|f(x)|}としたとき、定義より{g(x)}は可積分である。

よってこの{c|f(x)|}について不等式が成り立つことを考えれば良い。

(i) {x\in A_n}のとき

$$|f_n(x)\mathbb{1}_{A_n}(x)|=|f_n(x)|\leq c|f(x)|$$

1個目の等号は単関数の定義そのもの

2個目の不等式は{x\in A_n}{A_n}の定義より

(ii) {x\in A_n}のとき

 $$|f_n(x)\mathbb{1}_{A_n}(x)|=0\leq c|f(x)|$$

1個目の等号は単関数の定義

2個目の不等式は絶対値がそもそも非負であることから

 

(i)(ii)より{x\in X}について{|f_n(x)\mathbb{1}_{A_n}(x)|\leq c|f(x)|}

となる。

 

 

①②より、ルベーグの収束定理が使えることが分かったので、適用すればお目当ての公式を得ることができる

余談

ルベーグ積分の表記方法って流儀によるところが結構あったりしている

$$\int_X f d\mu$$

$$\int_X f(x) \mu(dx)$$

$$\int_X f(x) d\mu(x)$$

$$\vdots$$

この記事を書くときもどの流儀にするかは気まぐれで決めたりしているけど…