収束定理が使えない例-その1

概要

ルベーグの収束定理を適用させるためには、任意の自然数nについて一様に可積分関数で上から抑えられなくてはいけない。それができないタイプの問題を紹介する。

問題

以下の極限を求めよ

$$\lim_{n\to\infty}\int_{0}^{1}\sqrt{1+n^2x^{2n-2}}dx$$

収束定理の判定

以降は{f_n(x)=\sqrt{1+n^2x^{2n-2}}}とする。このとき、{\sup_{n\in\mathbb{N}}|f_n(x)|}を具体的に計算することは難しいが、{x=1}付近で{O(n)}の挙動をすることが予測されるので、可積分関数で抑えるのは厳しいように見える。もしルベーグの収束定理が適用できるのならば、{\lim_{n\to\infty}f_n(x)=1(x\lt 1),\infty (x=1)}となるが、これは無限の扱いに困るため積分するのは厳しそうに見える。とにかく、この問題はルベーグの収束定理を使わないほうがいいだろうと思うことができる。

解法

以下の不等式を使う

$$\max\{1,nx^{n-1}\}\leq \sqrt{1+n^2x^{2n-2}}\leq \sqrt{1+2nx^{n-1}+n^2x^{2n-2}}=1+nx^{n-1}$$

よって

$$\int_{0}^{1}\max\{1,nx^{n-1}\}\leq \int_{0}^{1}f_n(x)dx\leq \int_{0}^{1}1+nx^{n-1}dx$$

となる。(ここで目標:はさみうちの原理を使う→左右の極限の値を確かめる)

 

左辺について、{y_n}を、{0\leq y_n\leq 1}かつ{n{y_n}^{n-1}=1}であるように定める。(中間値の定理より、そのような{y_n}は存在し、さらに{nx^{n-1}}の単調性から一意に定まることがわかる。)

$$\int_{0}^{1}\max\{1,nx^{n-1}\}dx=\int_{0}^{y_n}\max\{1,nx^{n-1}\}dx+\int_{y_n}^{1}\max\{1,nx^{n-1}\}dx$$

$$=\int_{0}^{y_n}dx+\int_{y_n}^{1}nx^{n-1}dx$$

$$=[x]_{0}^{y_n}+[x^n]_{y_n}^{1}=y_n+1-{y_n}^n$$

$$=\left(1-\frac{1}{n}\right)y_n+1$$

ここで、最後の等式は{{y_n}^n=y_n/n}を使用した。

ここで、{y_n=n^{-1/(n-1)}} であるため、{\log{y_n}=\frac{-\log{n}}{n-1}}

より、{\lim_{n\to\infty}\log{y_n}=0}より、{\lim_{n\to\infty}y_n=1}

よって左辺は{n\to\infty}で2に収束する

 

右辺について、これは多項式積分として計算するだけ

$$\int_{0}^{1}1+nx^{n-1}dx=[x+x^n]_{0}^{1}=2$$

より右辺の極限は2である

 

左右について、極限の値が等しいため、はさみうちの原理を適用することができる。

よって、

$$\lim_{n\to\infty}\int_{0}^{1}\sqrt{1+n^2x^{2n-2}}dx=2$$

となる。

補足

これは{y=x^n}{0\leq x\leq 1}での曲線の長さについて考えている。

これを{n\to\infty}としてみて答えが2になったということは、{x^n}のグラフは{(0,0)\to(1,0)\to(1,1)}というような折れ線に{n\to\infty}で近くなっていくが(この「近い」をどう定義するかが重要である。うまく定義できないとこの議論は曖昧になる。)、結果的に長さの極限は「極限の形」の長さに等しくなってしまった、ということになる。それはたまたまかもしれないし、極限(位相構造)をうまく定義すれば必然性が分かるのかもしれない。