ルベーグ積分の使用例①
概要
ルベーグ積分の使用例として、ある問題について解説しようと思います。
この問題は測度論の演習問題によく出る気がします。
問題
を測度空間として,を非負な可積分関数とする.
このとき,測度を新たに
$$\nu (A)=\int_A g(x) d\mu(x),(A\in\mathcal{F})$$
と定めたとき,が測度になることを示せ.
また,
$$\int_X f(x)d\nu (x)$$
を求めよ.
材料
問題を解く前に材料を明らかにしておこう。測度論の基本的なことをすでに知っている場合は、適当に読み飛ばすか、血眼になって誤植を探すかをしよう。
①が測度であることを示すためには以下の2つを示せばよい。
- という互いに素な集合列(つまり、ならばが成り立つ)について$$\nu\left(\cup_{n=1}^{\infty}E_n\right)=\sum_{n=1}^{\infty}\nu(E_n)$$が成り立つ
単関数とはの有限個の線形結合で書ける関数である。ここで、
$$\mathbb{1}_A(x)=1(x\in A);0(x\in X\setminus A)$$
である。(この関数が可測関数となるためにはでなくてはいけないことに注意)つまり、単関数は
$$\sum_{k=1}^{n}a_k\mathbb{1}_{A_k}(x),(A_k\in\mathcal{F},a_k\in\mathbb{R})$$
という形である。
このとき、
$$\int_{X}\left( \sum_{k=1}^{n}a_k\mathbb{1}_{A_k}(x)\right) d\mu(x)=\sum_{k=1}^{n}a_k\mu(A_k)$$
と定義する。
また,非負関数については
単調増加で収束する単関数の列を用意して極限を取ればよい。
つまりかつとなるような単関数の列を用意したときに
$$\int_X f(x) d\mu(x):=\lim_{n\to\infty}\int_X f_n(x)d\mu(x)$$
と定義すればよい。このとき、どのような単関数の列を持ってきても極限が等しいこと(つまりwell-defined性)を示す必要がある。
この部分の証明は省略するが、*1実際の運用上では単関数の列を1つ適当に取ってくればよい。「実際にそのような列は存在するの?」という問いについては
$$f_n(x)=\min\left\{\frac{\lfloor{2^n f(x)}\rfloor}{2^n},n\right\}$$
と定めるとよいことがわかる。(証明はやってみよう)
また、積分範囲が限定されている場合については
$$\int_A f(x) d\mu(x):=\int_X f(x)\mathbb{1}_A(x)d\mu(x)$$
と定めるとよい。
③単調収束定理を使うので説明する。Wikipediaの方が詳細だが一応解説すると
という関数列があって、がすべてので成り立って、が成り立つならば、
$$\lim_{k\to\infty}\int_X f_k(x) d\mu(x)=\int_X f(x)d\mu(x)$$
が成り立つ。
という定理である。先程のルベーグ積分の定義は単関数の場合に限定して定めていたが、ここでは一般の単調増加な関数列を取ってくればOKということがわかる
解答
測度になっていること
①空集合で0になるやつ
$$\nu(\emptyset)=\int_\emptyset g(x) d\mu(x)$$
$$=\int_X g(x) \mathbb{1}_\emptyset (x) d\mu(x)=\int_X g(x)\cdot 0 d\mu(x)=0$$
よりである。
もし式変形がうまく追えない場合は以下の事実を踏まえてもう一度見てみよう
②互いに素な集合について和を保存するやつ
互いに素な集合の列を適当に取ってきてみる。
ここで、とおく。
このとき、
$$\sum_{k=1}^{n}\nu(E_k)=\sum_{k=1}^{n}\int_X g(x)\mathbb{1}_{E_k}(x) d\mu(x)$$
となる。ここでならなので(「互いに素」の言い換え)
$$=\int_X g(x)\mathbb{1}_{E_1\cup\cdots\cup E_n}(x)d\mu(x)=\int_X g(x)\mathbb{1}_{A_n}(x)d\mu(x)$$
となる。と飛ばした状況でも成り立っていることを示そう。
ここでというのは単調増加な関数列である。
わざわざ説明するのもあれなのでヒントを3つ:(i) ,(ii),(iii)の取りうる値は何?
またはに収束する。
-
についてはあるがあってとなるので、ならよりとなる。特に極限は1となる。
-
については任意の自然数についてとなるため、となる。の極限ももちろん0になる。
よって単調収束定理が使えて、
$$\lim_{n\to\infty}\int_X g(x)\mathbb{1}_{A_n}(x)d\mu(x)=\int_X g(x)\mathbb{1}_A(x)d\mu(x)$$
$$=\int_Ag(x) d\mu(x)=\nu(A)$$
となる。
左辺の極限は明らか(そもそも級数の定義になっている)なので、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\nu(E_n)=\nu\left(\cup_{n=1}^{\infty}E_n\right)$$
となる
積分したときの値について
まずは単関数について考える。
$$\int_X \mathbb{1}_A(x)d\nu(x)=\int_Ad\nu(x)$$
$$=\nu(A)=\int_A g(x) d\mu(x)$$
$$=\int_X g(x)\mathbb{1}_A(x) d\mu(x)$$
となっている。
という関数についても積分の線形性から求めることができる。
$$\int_Xf(x)d\nu(x)=\sum_{k=1}^{n}a_k\int_X\mathbb{1}_{A_k}(x)d\nu(x)$$
$$=\sum_{k=1}^{n}a_k\int_X g(x) \mathbb{1}_{A_k}(x)d\mu(x)=\int_X \left(\sum_{k=1}^{n}a_k\mathbb{1}_{A_k}(x)\right)g(x) d\mu(x)$$
$$=\int_X f(x)g(x)d\mu(x)$$
ここまでくればに特に制限を課さない場合でも等式が成り立つことが容易に想像できる。実際にそのとおりであり、証明には単調収束定理を使う。
を単調増加な単関数の列としてに各点収束するとする。
の各項については単関数であるため上記の性質が成り立っている。つまり
$$\int_{X}f_n(x)d\nu(x)=\int_{X}f_n(x)g(x)d\mu(x)$$
となっている。右辺についてはというに収束する単調増加関数列に対して単調収束定理を使う。すると
$$\lim_{n\to\infty}\int_X f_n(x)g(x)d\mu(x)=\int_X f(x)g(x)d\mu(x)$$
となる。
左辺についてはルベーグ積分の定義そのものである。単調増加な関数列についての結果の極限なので
$$\int_X f(x)d\nu(x) :=\lim_{n\to\infty}\int_X f_n(x)d\nu(x)$$
となる。これらの等号を比較することで
$$\int_X f(x) d\nu(x)=\int_X f(x)g(x)d\mu(x)$$
が示せた。(証明終)
補足
・が非負とは限らない場合にを定めたらどうなるか?
→なる集合が存在しうるので測度にならないが、符号付き測度という概念がある。詳細はググってみよう。(いつか解説するかも?)
・単調収束定理は積分が発散するときも使える。このとき左辺=右辺=∞となる。
・が非負とは限らない場合の積分はどうなるか?
→ととおくとは共に非負であってとなる。ここで
$$\int_X f(x)d\mu(x):=\int_X f_+(x)d\mu(x)-\int_X f_-(x) d\mu(x)$$
と定義すればよい。
ここで話を1つ。非負とは限らない関数のルベーグ積分を計算するためには「上側」と「下側」に分けて別々に積分するのだが、そのためには両方の積分が収束しなくてはいけない。
例えばとした場合を考えてみると
上側と下側を計算して形式的に書くと
$$\int_X f(x)d\mu(x)=\infty-\infty$$
となる。これは不定形なので積分は定められない。計算するためには
$$\int_{[0,n]}f(x) d\mu(x)$$
をについて計算してでの極限を求めれば良い。
計算すると結論としては
$$\int_{0}^{\infty}\frac{\sin{x}}{x}dx=\frac{\pi}{2}$$
となる。
これはルベーグ可積分ではないが広義ルベーグ可積分な例の1つである。
*1:建前の理由:ここを詳細に書きすぎると記事がさらに長くなってしまうから;本音の理由:筆者が証明を追えてないから