代数学の基本定理

???「真実はいつもひとつって言うけど、2次方程式の解は2つあるじゃん」

概要

代数学の基本定理の証明します。ここでは 複素解析を使った証明を2つほど紹介します。

主張

{n\geq 1}とする。{f(z)}複素数係数の{n}多項式とする。つまり

$$f(z)=a_nz^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots +a_1z+a_0$$

とする。ただし{a_n\neq 0}とする。

このとき、{f(\alpha)=0}をみたす複素数{\alpha}が存在する。

注意点

{n}個解がある」と言わなくても大丈夫なのか?と思うかもしれないが、とりあえず上の定理を認めるとどうなるかを考えてみよう。ここで因数定理が出てくる。

因数定理の主張は確か「多項式{f(x)}{(x-\alpha)}で割ったあまりは{f(\alpha)}である」という感じだった。

{n}多項式{f(z)}について{f(\alpha)=0}なる複素数{\alpha}の存在が言えると因数定理より多項式で割ることができる。つまり{f(z)=(z-\alpha)g(z)}というような形になる。ここで{g(z)}{(n-1)}多項式である。ここで、{g}についてまた代数学の基本定理を適用させる操作を繰り返すと結局

$$f(z)=a_n(z-\alpha_1)(z-\alpha_2)\cdots(z-\alpha_n)$$

となる。ここで{\alpha_1,\ldots,\alpha_n\in \mathbb{C}}である。

ここで気をつけなければいけないのは、{i\neq j}だからといって{\alpha_i\neq \alpha_j}とは限らないのである。「{n}次方程式は{n}個の解がある!」と言うと重解の存在を指摘されてレスバが泥沼状態になる。無難に済ませるためには、「{n}次方程式は重解を含めて{n}個の解がある!」と言うべきであろう。イメージとしては、例えば「{f(x)=(x-1)^2}には{x=1}という解が2つ存在する!」といったものである。

 

ところで代数学の基本定理って「{n}個の解がある」までを主張に含めるべきだろうか?流儀によると思われるが、でも結局は同じような結論になるので流儀が別々でもあまり問題はないのだけど。

各証明で使う大道具一覧

さて証明をする前に証明で使う定理の紹介をしよう。これらの定理の証明は今回はしないけどゆるして(記事が膨大になるのと、筆者が証明を記述できるほど定理に詳しいわけではないので…)

1.リウヴィルの定理

複素数平面上全体で正則であって、かつ有界な関数は定数関数しかない

この定理は一致の定理と合わせて「正則って強いよね」の紹介として取り上げられる定理である。正則の意味については「複素数微分が可能」という意味である。

ようは複素数微分するときに

$$f'(z)=\lim_{\Delta z\to 0}\frac{f(z+\Delta z)-f(z)}{\Delta z}$$

と定義したいが、{\Delta z\to 0}の近づけ方をどのようにしても結果が同じにならなくてはいけないのである。つまりは、

$$\lim_{\Delta x\to 0}\frac{f(z+\Delta x)-f(z)}{\Delta x}=\lim_{\Delta x\to 0}\frac{f(z+i\Delta x)-f(z)}{i \Delta x}=\cdots$$

とならなくてはいけないのだ。そのために「{\mathbb{R}^2}上の関数として偏微分可能」よりも厳しい条件を課す必要があって、その結果例えば{f(z)=\bar{z}}という共役を取るような関数は正則ではなくなるのである。

2.ルーシェの定理

{D}複素数上の単連結領域としたとき、{f,g}{\partial D}{D}の周上と捉えていればよいだろう。)上で{|f(z)|\gt |g(z)|}としたとき、{f+g}{g}{f}{D}上での零点の個数は重複度を含めて一致する。

零点とは{f(z)=0}となる{z}というようなものである。つまりは解の個数を数えることができるのでいかにも代数学の基本定理の証明のためにあるような定理だと思うのも無理はないかもしれない。

証明1(リウヴィルの定理を使用)

最高次の係数で全体を割ることで

$$f(z)=z^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots +a_1z+a_0$$

という形だけを考えてもよい。ちなみに証明2でも最初に同じようなことをやっている。*1

方針としては、背理法で示す。{f(z)=0}の解が存在しないと仮定した場合、{1/f(z)}複素数上全体で正則かつ有界となるため、リウヴィルの定理より定数となって矛盾する。という感じである。というわけでやってみよう

とりあえず{R=\max \{|a_0|,|a_1|,\ldots,|a_{n-1}|\}+1}とでもしておこう。

このとき、{|z|\geq R}のとき、

$$|a_0+a_1z+\cdots+a_{n-1}z^{n-1}|\leq |a_0|+|a_1||z|+\cdots+|a_{n-1}||z^{n-1}|$$

$$\leq (R-1)(1+|z|+\cdots+|z|^{n-1})\leq (|z|-1)(1+|z|+\cdots+|z|^{n-1})$$

$$\leq |z|^n-1$$

となる。よって、

$$|f(z)|\geq |z^n|-|a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_1z+a_0|$$

より、

$$|f(z)|\geq |z^n|-(|z^n|-1)=1\gt 0$$

となるため、このとき、{|f(z)|=1}である。

また、{|z|\leq R}の場合では、背理法の仮定より{|f(z)|}の最小値{\delta \gt 0}が存在する。

証明は最大最小値原理と同じようなことをやる。{|z|\leq R}を満たす領域がコンパクト*2だから{|f(z)|}が最小値を取る{|z'|\leq R}の存在がいえる。

shakayami-math.hatenablog.com

 

最小値が0ではないのも簡単なことである。{|f(z_n)|\leq \frac{1}{n}}なる点列がある場合、ボルツァーノワイエルシュトラスの定理より収束する点列が存在してその収束先{z^*}について{f(z^*)=0}となって矛盾するからである。ここで、{f}が連続であることから極限は保存することと、コンパクト領域だから収束先{z^*}は領域内にあることが保証されるからである。

よって、{\frac{1}{f(z)}}という関数は正則で複素数上全体で

$$\frac{1}{f(z)}\leq \max\{1,\frac{1}{\delta}\}$$

となって有界となる。よってここからリウヴィルの定理が使えて矛盾することがわかる。

証明2(ルーシェの定理を使用)

$$z^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots +a_1z+a_0$$

 について、

$$f(z)=z^n$$

$$g(z)=a_{n-1}z^{n-1}+\cdots +a_1z+a_0$$

 とする。

ここで、{R}{R\geq\max \{|a_0|,|a_1|,\ldots,|a_{n-1}|\}+1}を満たす任意の定数としよう。

目標としては、上記の{f,g}について、領域{|z|\leq R}についてルーシェの定理を使いたい。そのためには前提となる不等式が示せたら良いだろう。

つまり、{|z|=R}ならば、{|g(z)|\leq |f(z)|}となることを示せばよい。

注意:間違えがちだが、{|z|\leq R}上で示そうとすると泥沼になる。あくまで周上で成り立つことを示そう。

$$|g(z)|=|a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_1z+a_0|$$

$$\leq |a_{n-1}||z^{n-1}|+\cdots+|a_1||z|+a_0$$

$$= |a_{n-1}|R^{n-1}+\cdots+|a_1|R+a_0$$

$$\leq (R-1)R^{n-1}+\cdots+(R-1)R+(R-1)$$

$$= (R-1)\{R^{n-1}+\cdots+R+1\}$$

$$=(R^n-1)$$

$$\lt |z^n|=|f(z)|$$

よって成り立つ。ここでめでたくルーシェの定理が使える。

{f(z)+g(z)=z^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots +a_1z+a_0}{f(z)=z^n}{|z|\leq R}上で重複度含めて同じ数の零点を持つ。ここで、 {f(z)=z^n}{|z|\leq R}上の零点については、{z=0}に重複度{n}の零点を持つことが明らかにわかる。

よって{z^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots +a_1z+a_0=0}の解は{|z|\leq R}上に重複度含めて{n}個あることがわかる。

 {R}はいくらでも大きく取れるので、

$$z^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots +a_1z+a_0=0$$

の解は{\mathbb{C}}上に重複度含めて{n}個ある。

*1:ちなみに最高次の係数が1であるような多項式をモニックという

*2:ここでは有界閉集合という認識で大丈夫である。でもコンパクトの定義ってこんなに単純じゃない。ユークリッド空間{\mathbb{R}^n}上なら同じとしていいということがわかっているのだけど