五次方程式は解けない?

概要

数学のネタで、「五次方程式は解けない」というものがある。

しかし{x^5-1=0}みたいなのは{x=\exp(\frac{2ki\pi}{5})(k=0,\ldots,4)}という解を導き出すことができるため、「{x^5-1=0}という五次方程式は解くことができる」ということで正しくないのである。

なぜ「五次方程式は解けない」みたいなことが言われるのだろうか?そのことについては本質を正しく理解する必要がある。

 

詳しい人へ:ここでは有理数体上の代数方程式について議論しています。

格付け

理解度で格付けしてみると以下のようになるだろう。(個人の主観)

 

↑理解度が低い

・五次方程式に解は存在しない

・五次方程式は解けない

・一般的に五次方程式は解けない

・五次方程式に解の公式は存在しない

・五次方程式の解の公式は四則演算と冪根*1だけで表現することができない

・代数方程式の解が四則演算と冪根だけで表現できることの必要十分条件ガロア群が可解であることである。

↓理解度が高い

 

「五次方程式に解が存在しない」は完全に誤りである。一般的に{n}次の代数方程式は複素数の範囲内で重複度込みで{n}個の解が存在する。それは代数学の基本定理というものから導かれる。

参考記事:

shakayami-math.hatenablog.com

 

「五次方程式は解けない」については、前述の通り{x^5-1=0}のように解けるものがあるので正しくない。

 

「一般的に五次方程式は解けない」についても、「一般的」という言い方がかなり曖昧なので適切ではないだろう。

解の公式はない?

実は五次方程式には解の公式はある。楕円関数というものを使うと表現できるとのことである。詳細は「五次方程式 楕円関数」と検索すればよいだろう。

すると矛盾しているように見えるが、実際はおかしくない。

格付けの一段次を見ると「五次方程式の解の公式を四則演算と冪根だけで表現することはできない」というものがより適切な表現とのことである。

何が違うかというと、使える記号に制限を課しているのである。

一方楕円関数というものはいわば飛び道具みたいなものであり、「四則演算と冪根縛り」という制約を大幅に無視しているのだ。

「五次方程式の解の公式は四則演算と冪根以外の記号を使うと表現することができる」と表現すれば、2つの命題が矛盾せずに両立することがわかりやすいだろう。

ガロア理論について

「五次方程式の解の公式は四則演算と冪根だけで表現することはできない」というものは、正しい主張だが本質を正しく捉えていない。ガロア理論というものを構築する上で生み出された副次的な結果だと思えばいいだろう。「五次以上の方程式の解の公式は(以下略)」についても本質とは言えない。

 

まずは体の拡大について考える。

{f(x)}という{n}次の有理数係数代数方程式について、{\mathbb{C}}上に{n}個の解が存在する。その解を{\alpha_1,\ldots,\alpha_n}とする。ここで、以下のようなものを考える

{K}を「{1,\alpha_1,\ldots,\alpha_n}を使った四則演算だけで書くことのできる数の集合」とする。

これは{\mathbb{Q}}についてのベクトル空間となっている。和とスカラー倍について閉じていることは定義から見れば明らかである。

{K}{\mathbb{Q}-}ベクトル空間としての次元のことを拡大次数といって、{[K:\mathbb{Q}]}と書いたりする。

 また、{K}{f(x)}の最小分解体という。

 

このときに、「{\sigma:K\to K}という自己同型写像全体の集合」というものを考える。*2これは写像の合成という演算に対して群となっている。また、この群の位数(集合の濃度)は実は{[K:\mathbb{Q}]}と等しくなる。

このように定義した群のことをガロア群といい、{\mathrm{Gal}(K/\mathbb{Q})}と書く。

 

「五次方程式が~」の本質は、ガロア群の構造を知ることにある。

 

{f(x)}の解が四則演算と冪根で書けることの必要十分条件は、ガロア群が可解という性質を満たしていることである。これは五次に限らず、どのような代数方程式についても成り立つ一般論である。

 そして五次方程式のガロア群は{S_5}(5次対称群)となる場合があり、{S_5}は可解群ではないため、「五次方程式の解の公式が云々」という文が生まれるのである。

五次方程式のことを「副次的な結果」と言ったのは、ガロア理論の重要なことは「方程式と群を対応させる」ということであり、そのような理論を元にして五次方程式を考察することで上記の結果が導かれるからである。

6次以上の{n}多項式についてもガロア群が{S_n}という可解でない群になる場合があり、そのときには解を冪根で記述できなくなる。*3

 

冒頭で出てきた{x^5-1=0}については、この方程式のガロア群は{\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}}という群になり、これは可解群であるから例外的に解けるのである。

ちなみに{\exp(\frac{2ki\pi}{5})}というものは実は四則演算と冪根だけを使って書くことができる。{x^4+x^3+x^2+x+1=0}に対して{t=x+\frac{1}{x}}を使って書くと{t}についての二次方程式になる。あとは求めた{t}に対して{x^2-tx+1=0}{x}についての二次方程式になるため解けるという感じである。*4

最後に

この記事ではかなりかいつまんだ説明をしている。この記事を読んだだけでガロア理論を理解できたと思ってはいけない。(戒め)

別にガロア理論は方程式が解けるかどうかのためだけのものではない。

例えば角の三等分の作図問題などもガロア理論を使って議論することができる。

また五次方程式などが話題になりがちだが、個人的には「ガロア群の部分群が中間体に一対一対応する」というガロア理論の基本定理がとても重要な結果であると考えている。これも体の性質を考えるときに、群の性質についての考察に帰着できるため便利なものである。

関連記事

 

shakayami-math.hatenablog.com

 群についての基礎知識

 

*1:n乗根のこと

*2:自己同型写像というのは、①和と積について保存②全単射 をみたすものである。このとき、有理数に制限した写像は恒等写像となる。

*3:ガロア群が{S_n}にならなくても可解でないならば解を冪根で記述することはできなくなる。

*4:これは相反多項式と呼ばれているものに使える手法である。