無理数の判定法

概要

実数{\alpha}無理数であることの必要十分条件

任意の{\epsilon \gt 0}に対して

$$0\lt \left|\alpha-\frac{q}{p}\right|\lt \frac{\varepsilon}{p}$$

 を満たす有理数{\frac{q}{p}}が存在することである

 

これについて詳しく解説していこうと思います。

 

必要性の証明

{\alpha}有理数であるときに条件を満たさないことを示せばOK(つまり対偶を示す)

{\alpha=\frac{b}{a}}という分数表記で書けるとする。ここで{a,b}は整数で特に{a}は0でない。ここで例の不等式が満たされていると仮定すると

$$0\lt \left|\frac{b}{a}-\frac{q}{p}\right|\lt \frac{\varepsilon}{p}$$

 すべての辺を{p}倍すると

$$0\lt\left|\frac{bp-aq}{a}\right|\lt\varepsilon$$

 ここで、中辺は{a}倍すると整数になることが分かる。{\varepsilon=\frac{1}{2a}}とすれば

$$0\lt |bp-aq|\lt \frac{1}{2}$$

となるが、{|bp-aq|}は0より大きく1/2より小さい整数となるため矛盾する。

この矛盾は「例の不等式が満たされていると仮定」したことによって起こるため、つまり条件は満たされないということが分かる。

十分性の証明

{\alpha}無理数と仮定する。このとき、{0\lt\{n\alpha\}\lt\varepsilon}を満たす正の整数{n}が存在する。(ここで、{\{x\}}{x}の小数部分である。)以下証明(注:これはクロネッカーの稠密定理の特殊な場合である。)

 

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{\varepsilon\gt\frac{1}{N}}となるような自然数{N}を取ってくる。

このとき、{\{\alpha\},\{2\alpha\},\ldots,\{(N+1)\alpha\}}について考えるとこれらはどれも{\left[\frac{k}{N},\frac{k+1}{N}\right)(k=0,\ldots,N-1)}{N}個の区間のどれかに入っている。{(N+1)}個のものを{N}個のものに対応させるということなので、鳩ノ巣論法によって、1つの区間に2つ以上入っていることになる。

つまり{1\leq i\lt j\leq N+1}なる{(i,j}があって

$$\frac{k}{N}\lt\{i\alpha\},\{j\alpha\}\lt \frac{k+1}{N}$$

となる。(注:{\{i\alpha\},\{j\alpha\}}無理数なので{\frac{k}{N}}と等しくなるようなことはない)

ここで、{\{i\alpha\}\lt\{j\alpha\}}ならば、

$$0\lt \{(j-i)\alpha\}\lt \frac{1}{N}\lt \varepsilon$$より{n=j-i}とすれば条件を満たす

逆に{\{j\alpha\}\lt\{i\alpha\}}ならば、

$$1-\frac{1}{N}\lt \{(j-i)\alpha\}\lt 1$$

となるが、{\{k(j-i)\alpha\}}{k}を増やしていっても{\frac{1}{N}}未満のペースで減っていくため、{k}を増やしていけばいつかは

$$0\lt \{k(j-i)\alpha\}\lt \frac{1}{N}\lt\varepsilon$$より{n=k(j-i)}とすれば条件を満たす。

{\{j\alpha\}=\{i\alpha\}}の場合はありえない。{(j-i)\alpha}が整数ならば{\alpha}有理数となるからである。

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以上の議論から{0\lt\{n\alpha\}\lt\varepsilon}を満たす正の整数{n}が存在する。

よって{0\lt n\alpha-m\lt\varepsilon}となるように整数{m}を定めることができる。よって

$$0\lt |n\alpha-m|\lt \varepsilon$$

 {n}は0ではないので割ることができる。よって

$$0\lt \left|\alpha-\frac{m}{n}\right|\lt \frac{\varepsilon}{n}$$

 よって{p=n,q=m}とすればOK。

使用例1(ネイピア数eの場合)

以下の不等式が成り立つ。

$$\frac{1}{(n+1)!}\lt e-\sum_{k=0}^{n}\frac{1}{k!}\lt \frac{1}{n\cdot n!}$$

本筋からあまり逸れないように証明はかいつまんで行う。

$$e-\sum_{k=0}^{n}\frac{1}{k!}=\frac{1}{(n+1)!}+\frac{1}{(n+2)!}+\cdots$$

となるが、左辺の不等式は{\frac{1}{k!}\gt 0}より明らか。右辺の不等式については

$$\frac{1}{(n+1)!}+\frac{1}{(n+2)!}+\cdots\lt \frac{1}{(n+1)\cdot n!}+\frac{1}{(n+1)^2\cdot n!}+\cdots=\frac{1}{n!}\cdot \frac{\frac{1}{n+1}}{1-\frac{1}{n+1}}=\frac{1}{n\cdot n!}$$

となる。

 

ここで、{a_n=\sum_{k=0}^{n}\frac{n!}{k!}}とすると、{\frac{n!}{k!}}は整数であるため{a_n}は整数となる。このとき、上記の不等式の両辺を{n!}倍すると

$$\frac{1}{n+1}\lt n!e-a_n\lt \frac{1}{n}$$

となる。任意の{\varepsilon\gt 0}と取ってきたとき、{\varepsilon\gt\frac{1}{N}}となるような自然数{N}を取ってくると

$$0\lt \left|e-\frac{a_N}{N!}\right|\lt \frac{1}{N\cdot N!}\lt\frac{\varepsilon}{N!}$$

となるため、{p=N!,q=a_N}とすると条件が満たされるため、{e}無理数であることが分かる。

使用例2(√2の場合)

目標としてはペル方程式{x^2-2y^2=1}自然数解を生成したい。

 

数列{a_n,b_n}を以下のように定める。

$$a_0=1,b_0=0,a_{n+1}=3a_n+4b_n,b_{n+1}=2a_n+3b_n$$

ここで{a_n^2-2b_n^2}について考える

$$a_{n+1}^2-2b_{n+1}^2=(3a_n+4b_n)^2-2(2a_n+3b_n)^2$$

$$=9a_n^2+16b_n^2+24a_nb_n-8a_n^2-18b_n^2-24a_nb_n$$

$$=9a_n^2+16b_n^2-8a_n^2-18b_n^2=a_n^2-2b_n^2$$

 となるため、

$$a_n^2-2b_n^2=a_{n-1}^2-2b_{n-1}^2=\cdots=a_0^2-2b_0^2=1$$

となる。

よって、{x=a_n,y=b_n}はペル方程式{x^2-2y^2=1}の解である。

 

以上から

 $$(a_n^2-2b_n^2)=(a_n-\sqrt{2}b_n)(a_n+\sqrt{2}{b_n})=1$$

となる。

ここで、{(a_{n+1}+\sqrt{2}b_{n+1})=(3+2\sqrt{2})(a_n+\sqrt{2}b_n)}かつ{a_0+\sqrt{2}b_0=1}であるため、

$$(a_n+\sqrt{2}b_n)=(3+2\sqrt{2})^{n}$$である。よって{3+2\sqrt{2}\gt 5}より

$$0\lt a_n-\sqrt{2}b_n=\frac{1}{a_n+\sqrt{2}b_n}= \frac{1}{(3+2\sqrt{2})^n}\lt \frac{1}{5^n}$$

となる。

よって、{\varepsilon\gt 0}を任意に取ってきたとき、

{\varepsilon\gt\frac{1}{5^N}}となるような自然数{N}を取ってきたとき

$$0\lt |a_N-\sqrt{2}b_N|\lt \frac{1}{5^N}\lt \varepsilon$$

となるため、{N}が十分大きいときに{b_N\gt 0}となるため

$$0\lt \left|\sqrt{2}-\frac{a_N}{b_N}\right|\lt \frac{\varepsilon}{b_N}$$

となるため、{\varepsilon}に対して{p=b_N,q=a_N}と定めることによって条件が満たされるため、{\sqrt{2}}無理数であることが分かる。