整数係数の逆行列

問題

{A}をすべての成分が整数の{n}次正方行列とする。このとき次の2つが同値であることを示せ。

  1. 行列式が±1である
  2. 逆行列が存在して、逆行列のすべての成分が整数である

解答

1⇒2

行列式が0でないので正則。よって逆行列は存在する。

余因子行列を利用する。

{n}次正方行列{B}を以下のように定める。

  • {(i,j)}成分を「{A}から{i}行目と{j}行目を取り除いてできた{n-1}次正方行列」の行列式とする

このとき、{AB=(\det{A})\cdot E}となる。ただし{E}単位行列である。

よって$$A^{-1}=\frac{1}{\det{A}}B$$

となるが、{B}の各成分は 成分が整数の行列の行列式 であるため整数である。

仮定より{\det{A}=\pm 1}であるため、成分を{\det{A}}で割っても行列の成分はすべて整数のままである。

よって{A^{-1}}のすべての成分は整数となる。

2⇒1

{A}逆行列{A^{-1}}とおく。

このとき、成分が整数であることから{\det{A},\det{A^{-1}}}は整数である。

行列式は積について保存するので

$$\det{A}\cdot \det{A^{-1}}=1$$

より、

$$\det{A^{-1}}=\frac{1}{\det{A}}$$

が整数でならなくてはいけない。これを実現するためには{\det{A}=\pm 1}であることが必要である。

補足

$$\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})=\left\{A\in M_n(\mathbb{Z})|\det{A}=\pm 1\right\}$$

$$\mathrm{SL}_n(\mathbb{Z})=\left\{A\in M_n(\mathbb{Z})|\det{A}=1\right\}$$

 というものがあって、(これらをモジュラー群という)これらの集合が(行列の積に対して)群の構造をなしている。*1

これが今回示した定理とどのように関連しているかというと、{\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})}の逆元の存在性そのものである。

ちなみにSLの方については行列式の積の保存性によって{\det{A}=1}ならば{\det{A^{-1}}=1}しかありえないのでこれについても逆元が{\mathrm{SL}_n(\mathbb{Z})}の中にきちんと存在していることが言える。

*1:{M_n(K)}は成分がKの元によって構成されているn次正方行列全体の集合である。