三角関数の直交性とフーリエ級数
概要
を上で定義された連続関数とする。この関数を三角関数の無限和で表すことができた場合、以下のような形になるはずだ。
$$f(x)=\frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}\left[a_n\cos{(nx)}+b_n\sin{(nx)}\right]$$
ここでなぜをで割っているかについては、読み進めればわかるとだけ言っておこう。問題はこれらの係数が、具体的にどのような値であるかについてだ。実はこれらの係数は、三角関数の直交性を知っていれば求めることができる。
三角関数の直交性とは
まずは以下の積分たちについて考えてみよう。ここでは非負整数とする。
$$\int_{-\pi}^{\pi}\sin{(nx)}\sin{(mx)}dx$$
$$\int_{-\pi}^{\pi}\sin{(nx)}\cos{(mx)}dx$$
$$\int_{-\pi}^{\pi}\cos{(nx)}\cos{(mx)}dx$$
これらの積分は、三角関数の積和公式を使って計算することができる。
$$\sin{(nx)}\sin{(mx)}=\frac{1}{2}\cos{(m-n)x}-\frac{1}{2}\cos{(m+n)x}$$
であるから、これを積分したものは、
$$=\left\{\begin{array}{cc}\left[\frac{1}{2(m-n)}\sin{(m-n)x}-\frac{1}{2(m+n)}\sin{(m+n)x}\right]_{-\pi}^{\pi}&m\neq n\\\left[\frac{x}{2}-\frac{1}{2(m+n)}\sin{(m+n)x}\right]_{-\pi}^{\pi}&m=n\end{array}\right.$$
より、
$$\int_{-\pi}^{\pi}\sin{(nx)}\sin{(mx)}dx=\left\{\begin{array}{cc}0&m\neq n\\\pi&m=n\end{array}\right.$$
であることがわかる。
あとの2つについても同様に計算すると(計算過程は省略するが)以下のようになる。
$$\int_{-\pi}^{\pi}\sin{(nx)}\cos{(mx)}dx=0$$
$$\int_{-\pi}^{\pi}\cos{(nx)}\cos{(mx)}dx=\left\{\begin{array}{cc}0&m\neq n\\\pi&m=n\end{array}\right.$$
このように、違うものをかけて積分すると0になり、同じものをかけるとそれ以外の値になるという性質を直交性という。なぜ関数のような「図形として見えないもの」に対して直交性と言えるのかについても説明しよう。
上記の記事も必要に応じて参照してほしい。
この状況においては上で定義された連続関数全体の集合というベクトル空間について考えている。このとき、上の内積を以下のように定める。
$$f,g\in V\Rightarrow \langle f,g\rangle=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)g(x)dx$$
このように定義された内積について、関数については、
$$\langle \sin{(nx)},\sin{(mx)}\rangle=0$$
となる。つまり直交性とは単にベクトル空間の元で内積が0になるということを指しているのである。もう少し踏み込んでみると、
$$\{\sin{(nx)},\cos{(nx)}\}_{n\geq 1}$$
というものは、とその内積について、正規性と直交性を満たしていると考えることができる。つまり、フーリエ級数展開というものは、これらの三角関数からなる集合を基底とみなしたとき、任意の関数をどうやってベクトルの一次結合で表すのかということを意味しているのである。
フーリエ級数の求め方
三角形の直交性がわかってしまえばあとは簡単である。最初に言ってしまうと、
関数が
$$f(x)=\frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}\left[a_n\cos{(nx)}+b_n\sin{(nx)}\right]$$
という形で表すとき、それぞれの係数は以下のような形で表すことができる。
$$a_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos{(nx)}dx$$
$$b_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin{(nx)}dx$$
証明も念の為書いておこう。ここではの場合だけ証明するがの場合についてもやっていることはほとんど同じである。
$$\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos{(nx)}dx$$
$$=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\left\{\frac{a_0}{2}+\sum_{k=1}^{\infty}\left[a_k\cos{(kx)}+b_k\sin{(kx)}\right]\right\}\cos{(nx)}dx$$
$$=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\left\{\frac{a_0}{2}\cos{(nx)}+\sum_{k=1}^{\infty}\left[a_k\cos{(kx)}\cos{(nx)}+b_k\sin{(kx)}\cos{(nx)}\right]\right\}dx$$
ここで、一様収束性などを仮定すると、積分と和の順序交換ができる。
$$=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\frac{a_0}{2}\cos{(nx)}dx+\sum_{k=1}^{\infty}\left[a_k\int_{-\pi}^{\pi}\cos{(kx)}\cos{(nx)}dx+b_k\int_{-\pi}^{\pi}\sin{(kx)}\cos{(nx)}dx\right]$$
すると三角関数の直交性によって多くの項が0となってしまい、残った後はひとつだけとなる。
$$=a_n\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\cos{(nx)}\cos{(nx)}dx$$
$$=a_n$$
というように求めることができる。また、の場合は少し計算が違ってしまうが、
$$\left.\int_{-\pi}^{\pi}\cos{(nx)}\cos{(nx)}dx\right|_{n=0}=\int_{-\pi}^{\pi}dx=2\pi$$
であることに注意すると、の場合でも、
$$a_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos{(nx)}dx$$
が成り立つ。これが冒頭の式のを2で割っていた理由である。
最後に
これはというものをの正規直交基底とみなしたとき、を一次結合で表そうとすると、の係数がという形で表すことができるという性質(有限次元では明らかに成り立つ)を、無限次元の場合について考えてみたものと考えることもできる。