無限小数

概要

実数とは何かという問に対して、たいていの人は「無限小数で書ける数」ということを思い浮かべるかもしれないが、残念ながらそれでは不十分であるので無限小数とは何かについて考えなければいけないのである。

また、この記事は10進法(=2×5進法)で書かれています。

この記事は

 

shakayami-math.hatenablog.com

 で少し触れたことについて踏み込んでいます。

定義

とりあえず区間{\left[0,1\right]}上の実数だけを考える。

{a_n(n=1,2,\ldots)}を数列とする。このとき、任意の自然数nについて

$$a_n\in \left\{0,1,2,3,4,5,6,7,8,9\right\}$$

を満たしていなくてはいけない。

 このとき、ある実数{r}について

$$r=\sum_{n=1}^{\infty}a_n 10^{-n}$$

を満たすとき、{\left\{a_n\right\}_{n=1}^{\infty}}{r}の小数展開といい

$$r=0. a_1a_2a_3\cdots$$

と書く。

well-defined性

任意のnについて{a_n\leq 9}であるため、

$$\sum_{n=1}^{\infty}a_n\cdot 10^{-n}\leq \sum_{n=1}^{\infty}9\cdot 10^{-n}=1$$

となる。よってこの級数は上に有界な正項級数であるため、ある値に収束することが保証される。

つまり、{S_n=\sum_{k=1}^{n}a_k\cdot 10^{-k}}が上に有界な単調増加列であるため収束するということである。

詳細は過去記事参照

 

shakayami-math.hatenablog.com

 

全射

任意の実数{r\in \left[0,1\right]}について{r=0.a_1a_2a_3\ldots }となるような{\left\{a_n\right\}_{n=1}^{\infty}}が存在する。

 これは構成的に証明する

{a_1,\ldots,a_n}が決まっているときに{a_{n+1}}をどう決めるかを考える

まず、以下の不等式が成立する。

$$0\leq r-\sum_{k=1}^{n}a_k\cdot 10^{-k} \leq 10^{-n}$$

全部を{10^{n+1}}倍する

$$0\leq 10^{n+1}r-\sum_{k=1}^{n}a_k\cdot 10^{n+1-k}(=x_n)\leq 10$$

このとき、{x_n}{\left[0,10\right]}に入っているが、この区間は10個の閉区間

{[0,1],[1,2],\ldots,[9,10]}のうちのどれかに入っている。よって、

{x_n\in [m,m+1]}となるような{0\leq m\leq 9}を選んで{a_{n+1}=m}とすればよい。*1

 このとき、

$$0\leq 10^{n+1}r-\sum_{k=1}^{n+1}a_k\cdot 10^{n+1-k} \leq 1$$

より、

$$0\leq r-\sum_{k=1}^{n+1}a_k\cdot 10^{-k} \leq 10^{-n-1}$$

 とすることができる。

また、数列空間から実数への写像全射であるが単射ではない。

現に{0.49999\ldots=0.500000\ldots,0.9999999\ldots=1.00000\ldots}が成立している。

有理数の小数展開

これは割と非自明なことなのだが、なんと有理数は有限or整数or循環小数のどれかになるのである!

これを証明しよう。

有理数{r}は互いに素な整数{p,q}(ただし{q\gt 0,})を用いて{r=p/q}と書ける。ここで、{q=1}ならば{r}は整数になる。

また、{q}が2と5以外の素因数を持たないとする。つまり{q=2^a\cdot 5^b}と書けるとする。このとき、

$$\frac{p}{q}=\frac{p}{2^a\cdot 5^b}=\frac{p\cdot 2^b\cdot 5^a}{10^{a+b}}$$

であるため、高々{a+b}桁の小数展開で終わる。*2

 以下では上記以外の条件を仮定する。つまり、{q\geq 2}かつ{q=2^a\cdot 5^b\cdot c}(ただし{c\gt 1}であり{c}は2でも5でも割り切れない)と書けることを仮定する。

さらに{[0,1]}上の有理数だけを考える。それ以外は整数分を足し引きすれば良い。つまり{p\lt q}である。

ここで数論におけるオイラーの定理を使う。

nが正の整数でaとnが互いに素であるとき、

$$a^{\Phi(n)}\equiv 1(\mathrm{mod} n)$$

が成立する。

 ただし、{\Phi(n)}とはオイラーのトーシェント関数といって、

$$\Phi(n)=\#\left\{k\in\mathbb{N}|1\leq k\leq n\land \mathrm{gcd}(n,k)=1\right\}$$

である。つまり{n}以下で{n}と互いに素な自然数の個数である。

これの証明は略すが、{n}素数なら{\Phi(n)=n-1}となってフェルマーの小定理と等しくなるので、これは拡張フェルマーの小定理だと思えばいいだろう。

{c}{10}は互いに素であるため、

$$10^{\Phi(c)}\equiv 1(\mathrm{mod c})$$

であることから、{10^{\Phi(c)}-1}{c}の倍数である。よってある自然数{d}が存在して

$$10^{\Phi(c)}-1=cd$$

このとき、{q=2^a\cdot 5^b\cdot c}であることから、

$$\frac{p}{q}=\frac{p\cdot 2^b\cdot 5^a}{10^{a+b}c}=\frac{p\cdot 2^b\cdot 5^a\cdot d}{10^{a+b}(10^{\Phi(c)}-1)}$$

である。

 このとき、{A=p\cdot 2^b \cdot 5^a \cdot d}とおいて、

{A=(10^{\Phi(c)}-1)Q+R,0\leq R\lt 10^{\Phi(c)}-1}となるように{R,Q}を定めると

$$\frac{p}{q}=\frac{(10^{\Phi(c)}-1)Q+R}{10^{a+b}(10^{\Phi(c)}-1)}=\frac{Q}{10^{a+b}}+\frac{1}{10^{a+b}}\cdot \frac{R}{10^{\Phi(c)}-1}$$

となる。

 このとき、

$$\frac{1}{10^{\Phi(c)}-1}=\sum_{n=1}^{\infty}10^{-n\Phi(c)}$$

である。

ここで、 {Q,R}の10進法での表現を以下のように定める。(これらは整数となる!)

$$Q=\sum_{k=0}^{a+b-1}x_{a+b-k}10^{k}=x_1x_2\ldots x_{a+b}$$

$$R=\sum_{k=0}^{\Phi(c)-1}y_{\Phi(c)-k}10^k=y_1y_2\ldots y_{\Phi(c)}$$

{R,Q}が思っているより小さい数なら冒頭に適当な数だけ0を付け加えれば良い。*3

すると、

 $$\frac{p}{q}=\frac{Q}{10^{a+b}}+\frac{1}{10^{a+b}}\cdot \sum_{n=1}^{\infty}R\cdot 10^{-n\Phi(c)}$$

$$=\frac{x_1x_2\ldots x_{a+b}}{10^{a+b}}+\frac{1}{10^{a+b}}\cdot \sum_{n=1}^{\infty}y_1y_2\ldots y_{\Phi(c)}\cdot 10^{-n\Phi(c)}$$

となる。よって、

$$\frac{p}{q}=0.(x_1x_2\ldots x_{a+b})[y_1\ldots y_{\Phi(c)}][y_1\ldots y_{\Phi(c)}]\ldots$$

とすれば実際にこれが小数展開になる。*4

よってこのとき{a+b}桁以降は{[y_1\ldots y_{\Phi(c)}]}が循環節となる循環小数になることが示された。(証明終了)

補足

このとき小数の桁は{\Phi(c)}で循環するが、循環の周期は{\Phi(c)}の約数となる。必ずしも{\Phi(c)}と等しくなるとは限らない。なぜならば{\Phi(c)=3}かつ{y_1y_2y_3=111}となるような場合があるからである。({(p,q)=(1,9)}

このとき確かに3桁周期で小数が循環しているが、1桁周期というもっと小さい循環もしているのである。(どちらにせよ小数が循環にしていることには変わらない)

*1:このような{m}が複数あるときはどれを選んでも構わない。選び方を変えることで0.999...=1.000...というように異なる2つの表現方法で同じ数を表すことができる。

*2:実際には{\mathrm{max}\{a,b\}}桁の小数展開で終わる

*3:例えば、{\Phi(c)=3,R=35}なら、{y_1y_2y_3=035}とすればよい。

*4:ちなみに小数に括弧をつけたのは筆者が見やすいように勝手につけただけなのでそのような流儀があるというわけではない。