オイラーの公式

概要

オイラーの公式といえば

$$e^{ix}=\cos{x}+i\sin{x}$$

という形が有名だが、これがどういうことについて解説する。

最初に

これが何をやっているかというと、指数関数を複素数上でも使えるように拡張するとどうなるかについて考えた結果できたものである。

別に拡張なんて好き勝手やればいいのである。例えば{e^{x+iy}=e^{x+y}}とか{e^{x+iy}=e^x+e^y-1}みたいな形を勝手に持ってきて指数関数です!って言っても($y=0$の場合に左辺=右辺=$e^x$となっているので)一応は拡張と言うことができる。

しかし新しい定義をするということは、何かしらのメリットがそこにないといけない。

好き勝手定義して「ぼくのかんがえたさいきょうの指数関数」を量産したとしても、使い物にならないので相手にされるようなことはないだろう。 

オイラーの公式、つまり指数関数の拡張が

$$e^{x+iy}=e^x\cos{y}+i e^{x}\sin{y}$$

という形をしているのは、このように定義することで多くの恩恵を受けるからである。

新しい指数関数を作る際に欲しい性質を要求したら、結局条件を満たすものは上記の1つしか無いことが分かるのである。

性質1(正則性)

正則性とは、複素微分が可能ということである。微分するということは

$$\lim_{\Delta z\to 0}\frac{f(z+\Delta z)-f(z)}{\Delta z}$$

の極限を求めるのだが、{\Delta z}の0への近づけ方をどのようにしても極限値が等しくなければいけない。結局の所

$$\lim_{\Delta y\to 0}\frac{f(x+iy+i\Delta y)-f(x+iy)}{i\Delta y}=\lim_{\Delta x\to 0}\frac{f(x+iy+\Delta x)-f(x+iy)}{\Delta x}$$

を満たしている必要がある。実部に沿って0に近づけたときの結果と虚部に沿って0に近づけた結果が同じにならなければいけない。

身近な例として{f(x+iy)=x-iy}という複素共役を取る関数は正則ではない

 

さて、新しく指数関数を定義するときには正則性を満たして欲しいものである。

実は正則性を仮定したら条件を満たすものは1つしか無くなるのだ。これを見ていこう

 

正則であるための必要条件として、コーシーリーマンの関係式がある。

$$f(x+iy)=u(x,y)+iv(x,y)$$

という関数と見たとき、{f}が正則であるためには

$$\frac{\partial u}{\partial x}=\frac{\partial v}{\partial y},\frac{\partial u}{\partial y}=-\frac{\partial v}{\partial x}$$

を満たしている必要がある。

ここで、$u(x,y)=e^x\cos{y},v(x,y)=e^{x}\sin{y}$

を代入してみると

$$\frac{\partial u}{\partial x}=e^x\cos{y}$$

$$\frac{\partial v}{\partial y}=e^x\cos{y}$$

より{\frac{\partial u}{\partial x}=\frac{\partial v}{\partial y}}となり、

$$\frac{\partial u}{\partial y}=-e^x\sin{y}$$

$$\frac{\partial v}{\partial x}=e^x\sin{y}$$

より{\frac{\partial u}{\partial y}=-\frac{\partial v}{\partial x}}となる。

よってコーシーリーマンの関係式が成り立っている。

また、$u(x,y),v(x,y)$は全微分可能であるから、$f=u+i v$は正則であることが分かる。

*1

逆に正則性を満たすものはこの1つしかない。これは一致の定理より導かれる。

 

【一致の定理】

$D$上で定義された正則関数$f,g$について、{z_n\to z^*\in D(n\to \infty)}となる$D$上の点列{z_n\in D}があって、{f(z_n)=g(z_n)(n=1,2,...)}という等式が成り立つならば、{f(z)=g(z)(z\in D)}となる。

 

ここでは、{D=\mathbb{C}}であり、{z_n=1/n}とすればよいだろう。

もし{f,g}が正則性を満たす指数関数の拡張であるならば(つまり実数上ではもともとの指数関数と同じ振る舞いをする)、

$$f(z_n)=g(z_n)=e^{1/n}$$

となるため、一致の定理を適用させることで

$$f(z)=g(z)(z\in \mathbb{C})$$

となることがわかる。つまり正則性を仮定するならば、$e^{x+iy}=e^x\cos{y}+i e^x\sin{y}$という定義以外はダメなのである。

性質2(Taylor展開)

実数上での指数関数は

$$e^{x}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^n}{n!}$$

とTaylor展開することができるが、複素数上に拡張するならば

$$e^{x+iy}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{{(x+iy)}^n}{n!}$$

となるように新しく「定義」するのが最も自然であろう。

 このように定義したとき、指数法則が満たされていることが分かる。つまり$$e^{z+w}=e^ze^w$$

が成り立っている。

 

$$|\sum_{n=0}^{2N}\frac{(z+w)^n}{n!}-\sum_{p=0}^{N}\frac{z^p}{p!}\sum_{q=0}^{N}\frac{w^q}{q!}|$$

$$=|\sum_{n=0}^{2N}\sum_{k=0}^{n}\frac{z^kw^{n-k}{}_nC_k}{n!}-\sum_{p=0}^{N}\frac{z^p}{p!}\sum_{q=0}^{N}\frac{w^q}{q!}|$$

$$=|\sum_{n=0}^{2N}\sum_{k=0}^{n}\frac{z^kw^{n-k}}{k!(n-k)!}-\sum_{p=0}^{N}\frac{z^p}{p!}\sum_{q=0}^{N}\frac{w^q}{q!}|$$

$$\leq \sum_{p=0}^{N}|\frac{z^p}{p!}|\sum_{q=N+1}^{2N}|\frac{w^q}{q!}|+\sum_{p=N+1}^{2N}|\frac{z^p}{p!}|\sum_{q=0}^{N}|\frac{w^q}{q!}|$$

$$\lt e^{|z|}\varepsilon+e^{|w|}\varepsilon$$

となるためである。(詳細:コーシー積)

 

つまり、$e^{x+iy}=e^{x}e^{iy}$となるため、とりあえず$e^{iy}$だけ考えればよいことになる。

 

$\mathrm{Re},\mathrm{Im}$をそれぞれ実部、虚部を取る関数と定めてみる。この関数は{\mathbb{R}^2}上で定義された関数として連続関数である。

ここで

$$e^{iy}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(iy)^n}{n!}=\lim_{N\to\infty}\sum_{n=0}^{N}\frac{(iy)^n}{n!}$$

である。

$$\mathrm{Re}(e^{iy})=\mathrm{Re}\left(\lim_{N\to\infty}\sum_{n=0}^{N}\frac{(iy)^n}{n!}\right)$$

であるが、$\mathrm{Re}$が連続関数であることよりこれは

 $$\mathrm{Re}\left(\lim_{N\to\infty}\sum_{n=0}^{N}\frac{(iy)^n}{n!}\right)=\lim_{N\to\infty}\mathrm{Re}\left(\sum_{n=0}^{N}\frac{(iy)^n}{n!}\right)$$

となる。また、$\mathrm{Re}$は線形な関数でもあるので

$$=\lim_{N\to\infty}\sum_{n=0}^{N}\mathrm{Re}\left(\frac{(iy)^n}{n!}\right)$$

となる。これは

$$=\sum_{n=0}^{\infty}\mathrm{Re}\left(\frac{(iy)^n}{n!}\right)=1-\frac{y^2}{2}+\frac{y^4}{24}+\cdots$$

となるため、$\cos{y}$と等しいことが分かる。

虚部についても同様の議論で進めると$y-\frac{y^3}{6}+\frac{y^5}{120}+\cdots$となるため$\sin{y}$が出てくる。

よって結局$e^{iy}=\cos{y}+i\sin{y}$であることがわかる。

 

まとめ

まず、オイラーの公式というものは「指数関数の複素数への拡張」である。

ただ、単に拡張するだけではダメで、何か良い性質を満たしてほしい。

その性質は例えば「複素関数として正則」や「形式的なTaylor展開で表される」といったものである。

そのような性質を追加したら結局「$e^{x+iy}=e^x\cos{y}+i e^x\sin{y}$」という拡張が「最も良い性質を持った拡張」となる。

「最も良い性質を持った拡張」をとりあえず指数関数の正統派の拡張として定義すれば何かと便利なことが多いため、オイラーの公式として定めているのである。

これは個人的な考えだが、そのような意味で言えば、オイラーの公式は【発見されたもの】と言うよりは【発明されたもの】と表現するべきなのかもしれない。

追記

歴史的過程でこのような厳密な議論によってオイラーの公式が「発明」されていったかと考えるとそのようなことは無いように思える。最先端では曖昧な議論があって、厳密性というのは後付けで成り立っていくものである。

この記事はそのような歴史的過程は考えずに「厳密な論理体系でオイラーの公式を示してみた場合の記述」について考察したものといえる。

*1:$u(x+\Delta x,y+\Delta y)-u(x,y)= \cos{y}\Delta x+o(|\Delta x|+|\Delta y|)$,$u(x+\Delta x,y+\Delta y)-u(x,y)=\sin{y}\Delta x+e^{x}\Delta y+o(|\Delta x|+|\Delta y|)$より全微分可能である。

頭脳王2020の物理

注意

この記事では真面目に問題を解きません

概要

先日放送された頭脳王という番組で「日本からフランスへボールを投げるために必要な初速は幾らか?」という問題が出題された。しかし問題の仮定では地球が平面という仮定をしていて、(流石に東京ーパリ間は直線とはみなせないだろ)と思ったため、地球の丸みを考慮した場合の答えを算出することにしてみた。

 

  • 注意
  • 概要
  • 問題の仮定
  • 計算過程その1:軌道の決定
    • 余談(仰角が45°じゃない場合)
  • 計算過程2:速度の計算
  •  地球平面説の場合との比較
  • あとがき
  • 最適な投射角(2021年2月19日追記)
  • 関連記事
続きを読む

ルベーグ積分の使用例③

概要

ルベーグ積分の使用例として、ある問題を解説しようと思います。

ちなみにこれは自作問題です

問題

{(X,\mathcal{F})}をσ加法族として{\mu_1,\mu_2}{(X,\mathcal{F})}上の測度とする。

ここで、{\mu:\mathcal{F}\to\mathbb{R}}を、{\mu(A)=\mu_1(A)+\mu_2(A)}とする。

(1) {\mu}{(X,\mathcal{F})}上の測度であることを示せ

(2) {f}を可積分関数としたとき、{\int_X f d\mu}を求めよ

続きを読む

ルベーグ積分の使用例②

概要

ルベーグ積分の使用例として、ある問題を解説していきたいと思います。

 

問題

{(X,\mathcal{F},\mu)}を測度空間とする。{X}上の可測関数の列{f_n}があって、{f_n\to f}に各点収束する。{c\gt 1}を満たす実定数{c}について

$$A_n=\{x\in X| |f_n(x)|\leq c |f(x)|\}$$

と定めたとき、

$$\lim_{n \to\infty}\int_{A_n}f_n d\mu=\int_X fd\mu$$

となることを示せ。

続きを読む

正定値行列について

概要

正定値行列について適当に*1解説をします。また、ここで出てくる行列は実数係数です

 

定義

n次対称行列{A}が半正定値であるとは任意の{x\in \mathbb{R}^n}に対して

$$x^{\top} Ax\geq 0$$

となることをいう。また{A}が正定値であるとは、半正定値であってかつ

$$x^{\top}Ax=0\Leftrightarrow x=0$$

となることをいう。

同値な定義

半正定値⇔すべての固有値が非負

正定値⇔すべての固有値が正

 

以下これの証明をする

①半正定値⇒すべての固有値が非負

対偶を示す。{A}は対称行列なので直交対角化ができる。

よって{A=P\Lambda P^{-1}}

$$x^{\top}Ax=x^{\top}P\Lambda P^{-1}x$$

$$=(P^{\top}x)^{\top}\Lambda (P^{-1}x)$$

対称行列は転置と逆行列が等しくなるので

$$=(P^{-1}x)^{\top}\Lambda (P^{-1}x)$$

となる。ここで{\Lambda}

$$\Lambda=\left(\begin{array}{ccc}\lambda_1&\cdots&0\\\vdots&\ddots&\vdots\\0&\cdots&\lambda_n\end{array}\right)$$

という形をしているが、背理法の仮定により、{A}は負の固有値をもつので{\lambda_i\lt 0(\exists i)}と仮定することができる*2

{e_i\in\mathbb{R}^n}{i}番目の基本ベクトル*3として{x=Pe_i}とおくと

$$x^{\top}Ax=(P^{-1}Pe_i)^{\top}\Lambda (P^{-1}Pe_i)$$

$$={e_i}^{\top}\Lambda e_i=\lambda_i\lt 0$$

となる。よって対偶が示された。

②全ての固有値が非負⇒半正定値

{A}を直交対角化して{A=P\Lambda P^{-1}}として

$$\Lambda=\left(\begin{array}{ccc}\lambda_1&\cdots&0\\\vdots&\ddots&\vdots\\0&\cdots&\lambda_n\end{array}\right)$$

{\lambda_1,\ldots,\lambda_n}{A}固有値なのでこれらは全て非負である。

{x^{\top}=(x_1,\ldots,x_n),x=Py,y^{\top}=(y_1,\ldots,y_n),}

とおくと、

$$x^{\top}Ax=(P^{-1}Py)^{\top}\Lambda (P^{-1}Py)$$

$$=y^{\top}\Lambda y=\sum_{k=1}^{n}\lambda_k {y_k}^2\geq 0$$

となる。

③全ての固有値が正⇒正定値

【②】とほぼ同じ。{\lambda_k\gt 0}より

$$\sum_{k=1}^{n}\lambda_k {y_k}^2=0\Leftrightarrow y_1=\cdots=y_n=0$$

となった。

④正定値⇒すべての固有値が正

もし{\lambda_i=0}なる{i}がある場合なら、

{i}番目の基本ベクトル{e_i}について{x=Pe_i}とすれば

$$x^{\top}Ax=\lambda_i=0$$

となって{P}:正則なので、0でないベクトルであって{x^{\top}Ax=0}となるものが存在する。

よって半正定値行列について「0を固有値に持つ⇒正定値ではない」が成り立つので対偶を取ればよい

 

内積との一対一対応

 

shakayami-math.hatenablog.com

 

{\langle *,*\rangle}{\mathbb{R}^n}上の内積としたとき、{A}という正定値行列が存在して{\langle x,y\rangle=x^{\top}Ay}となる。

②逆に{A}という正定値行列があるならば{\langle x,y\rangle :=x^{\top}Ay}と定めたら内積になる

 

①の証明

{e_1,\ldots,e_n}という基本ベクトルを取ってきたとき、{A}という行列を

{(i,j)}成分を{\langle e_i,e_j\rangle}と定めるとよい。つまり

$$A=\left(\begin{array}{ccc}\langle e_1,e_1\rangle&\cdots&\langle e_1,e_n\rangle\\\vdots&\ddots&\vdots\\\langle e_n,e_1\rangle&\cdots&\langle e_n,e_n\rangle\end{array}\right)$$

 を定めると

$$x^{\top}Ay=\left(x_1,\ldots,x_n\right)\left(\begin{array}{ccc}\langle e_1,e_1\rangle&\cdots&\langle e_1,e_n\rangle\\\vdots&\ddots&\vdots\\\langle e_n,e_1\rangle&\cdots&\langle e_n,e_n\rangle\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}y_1\\\vdots\\y_n\end{array}\right)$$

$$=\left(x_1,\ldots,x_n\right)\left(\begin{array}{c}\langle e_1,e_1\rangle y_1+\cdots +\langle e_1,e_n\rangle y_n\\\vdots\\\langle e_n,e_1\rangle y_1+\cdots+\langle e_n,e_n\rangle y_n\end{array}\right)$$

$$=\left(x_1,\ldots,x_n\right)\left(\begin{array}{c}\langle e_1,y\rangle\\\vdots\\\langle e_n,y\rangle\end{array}\right)$$

$$=x_1\langle e_1,y\rangle +\cdots x_n\langle e_n,y\rangle$$

$$=\langle x,y\rangle$$

 となっている。(途中の変形については、内積の双線形性を用いた。)

 {A}が正定値であることも明らかである。具体的には内積の正値性を用いる。

$$x^{\top}Ax=\langle x,x\rangle\geq 0$$となっているため半正定値行列であり,{x\neq 0}ならば{\langle x,x\rangle\neq 0}となるため正定値行列である。

 

②の証明

(i)双線形性

行列の積が線形性(分配法則)を満たすから

(ii)交代性

正定値行列は前提として対称行列であるから

(iii)正値性

正定値行列の定義そのもの

平方根の存在

半正定値行列{A}を直交対角化して{A=P\Lambda P^{-1}}とおく

ここで

$$\Lambda=\left(\begin{array}{ccc}\lambda_1&\cdots&0\\\vdots&\ddots&\vdots\\0&\cdots&\lambda_n\end{array}\right)$$

であって{\lambda_i\geq 0(i=1,\ldots,n)}である。ここで、

$$D=\left(\begin{array}{ccc}\sqrt{\lambda_1}&\cdots&0\\\vdots&\ddots&\vdots\\0&\cdots&\sqrt{\lambda_n}\end{array}\right)$$

 とおくと、対角行列同士の積は成分ごとの積になるため{D^2=\Lambda}である。

ここで、

$$B=P D P^{-1}$$

とおくと

$$B^2=P D P^{-1}P D P^{-1}=P D^2P^{-1}=P\Lambda P^{-1}=A$$

となる。特に{B}{A}平方根となる。

特に{D}のいくつかの対角成分を{\sqrt{\lambda_k}}から{-\sqrt{\lambda_k}}に変えるなどの工夫をこらしたら、{B^2=A}なる正方行列{B}が少なくとも{2^n}個生成できるだろう。

また{D}が違ったら{B}が違う形になることは{P}正則行列であることから保証してくれるので、違う表記で結果がダブることはない。

行列式

正定値行列の場合は行列式は正、半正定値行列の場合は行列式が非負であることが言える。

というのも行列式固有値のすべての積(固有方程式について解と係数の関係を考えれば良い)であることからわかる

分散共分散行列

{X_1,\ldots,X_n}をそれぞれ確率変数とする。このときn次正方行列{A}

{(i,j)}成分が{E[(X_i-E[X_i])(X_j-E[X_j])]}であるような行列を考える。

$$A=\left(\begin{array}{ccc}E[(X_1-E[X_1])(X_1-E[X_1])]&\cdots&E[(X_1-E[X_1])(X_n-E[X_n])]\\\vdots&\ddots&\vdots\\E[(X_n-E[X_n])(X_1-E[X_1])]&\cdots&E[(X_n-E[X_n])(X_n-E[X_n])]\end{array}\right)$$

$$a^{\top}Aa=\left(a_1,\ldots,a_n\right)\left(\begin{array}{ccc}E[(X_1-E[X_1])(X_1-E[X_1])]&\cdots&E[(X_1-E[X_1])(X_n-E[X_n])]\\\vdots&\ddots&\vdots\\E[(X_n-E[X_n])(X_1-E[X_1])]&\cdots&E[(X_n-E[X_n])(X_n-E[X_n])]\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}a_1\\\vdots\\a_n\end{array}\right)$$

これは内積のときと同じ方法で計算できる。具体的には期待値の線形性を用いる。

つまり、任意の確率変数{X,Y}に対して{E[X+Y]=E[X]+E[Y]}なので

$$a^{\top}Aa=E[\left\{(a_1X_1+\cdots+a_nX_n)-E[a_1X_1+\cdots+a_nX_n]\right\}^2]\geq 0$$

となる。つまり{A}が半正定値行列であることがわかる。

次に正定値となる条件について考えてみると、確率変数{X}について

{E[(X-E[X])^2]=0}となるためには{E[X]=X}が確率1で成り立たなくてはいけない。*4

つまり正定値行列にならない条件とはある{(a_1,\ldots,a_n)\neq(0,\ldots,0)}があって100%の確率で

$$E[a_1X_1+\cdots+a_nX_n]=a_1X_1+\cdots+a_nX_n$$

が成り立ってしまうこととなる。つまり{a_j\neq 0}ならば

$$X_j=\frac{1}{a_j}\left(E[a_1X_1+\cdots+a_nX_n]-\sum_{k\neq j}a_kX_k\right)$$

というように「一次従属」みたいな形になる。(つまり、余計な情報があると考えれば良い)

さて、以降は分散共分散行列が正定値行列になる場合について考えてみる。

多次元正規分布というものがある。{x\in \mathbb{R}^n}として、確率密度関数

$$f(x)=\frac{1}{\sqrt{(2\pi)^n}\cdot \sqrt{\det{A}}}\exp{\left(-\frac{1}{2}{(x-\mu)}^{\top}A^{-1}(x-\mu)\right)}$$

という形になっている。{\mu}とは平均ベクトルであり、{A}は分散共分散行列である。

分散共分散行列が正定値行列ならば行列式は正なので{A^{-1}}{\sqrt{\det{A}}}で割る場面が無事に定義することができる。

ここで{A=P\Lambda P^{-1}}というような対角化を考えたとき、

$$f(Py+\mu)=\frac{1}{\sqrt{(2\pi)^n}\cdot \sqrt{\det{A}}}\exp{\left(-\frac{1}{2}{Py}^{\top}P\Lambda^{-1} P^{-1}Py\right)}$$

$$=\frac{1}{\sqrt{(2\pi)^n}\cdot \sqrt{\det{A}}}\exp{\left(-\frac{1}{2}{y}^{\top}\Lambda^{-1} y\right)}$$

$$=\frac{1}{\sqrt{(2\pi)^n}\cdot \sqrt{\det{A}}}\exp{\left(-\frac{1}{2}\sum_{k=1}^{n}\frac{{y_k}^2}{\lambda_k}\right)}$$

$$=\frac{1}{\sqrt{\det{A}}}\prod_{k=1}^{n}\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\exp{\left(-\frac{1}{2}\frac{{y_k}^2}{\lambda_k}\right)}\right)$$

$$=\frac{1}{\sqrt{\lambda_1\cdots\lambda_n}}\prod_{k=1}^{n}\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\exp{\left(-\frac{1}{2}\frac{{y_k}^2}{\lambda_k}\right)}\right)$$

$$=\prod_{k=1}^{n}\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi\lambda_k}}\exp{\left(-\frac{1}{2}\frac{{y_k}^2}{\lambda_k}\right)}\right)$$

 となる。{P}は直交行列なので、うまい具合に回転・平行移動などを使って座標変換をすれば、複数の(いろいろな標準偏差を持つ)1次元正規分布の積、つまり{n}個の独立な正規分布の積に分解することができる。 

*1:自分の理解が十分に行き届いてない言い訳

*2:Λの対角成分にAの固有値が並んでいるのでこのような仮定ができる

*3:i番目の成分だけ1で他の成分が全て0であるようなベクトル

*4:ここであえて「確率1」という表現をしたが、ひねくれてるわけではなく正しい表現を追求した結果こうなっている。というのも「常に成り立つ」と「確率1で成り立つ」は厳密には異なるのだ。確率とはルベーグ測度なので、「確率1で」というのは測度論でいうところの「ほとんど至るところで」と同じだと考えるのが良い。

整数係数の逆行列

問題

{A}をすべての成分が整数の{n}次正方行列とする。このとき次の2つが同値であることを示せ。

  1. 行列式が±1である
  2. 逆行列が存在して、逆行列のすべての成分が整数である

解答

1⇒2

行列式が0でないので正則。よって逆行列は存在する。

余因子行列を利用する。

{n}次正方行列{B}を以下のように定める。

  • {(i,j)}成分を「{A}から{i}行目と{j}行目を取り除いてできた{n-1}次正方行列」の行列式とする

このとき、{AB=(\det{A})\cdot E}となる。ただし{E}単位行列である。

よって$$A^{-1}=\frac{1}{\det{A}}B$$

となるが、{B}の各成分は 成分が整数の行列の行列式 であるため整数である。

仮定より{\det{A}=\pm 1}であるため、成分を{\det{A}}で割っても行列の成分はすべて整数のままである。

よって{A^{-1}}のすべての成分は整数となる。

2⇒1

{A}逆行列{A^{-1}}とおく。

このとき、成分が整数であることから{\det{A},\det{A^{-1}}}は整数である。

行列式は積について保存するので

$$\det{A}\cdot \det{A^{-1}}=1$$

より、

$$\det{A^{-1}}=\frac{1}{\det{A}}$$

が整数でならなくてはいけない。これを実現するためには{\det{A}=\pm 1}であることが必要である。

補足

$$\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})=\left\{A\in M_n(\mathbb{Z})|\det{A}=\pm 1\right\}$$

$$\mathrm{SL}_n(\mathbb{Z})=\left\{A\in M_n(\mathbb{Z})|\det{A}=1\right\}$$

 というものがあって、(これらをモジュラー群という)これらの集合が(行列の積に対して)群の構造をなしている。*1

これが今回示した定理とどのように関連しているかというと、{\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})}の逆元の存在性そのものである。

ちなみにSLの方については行列式の積の保存性によって{\det{A}=1}ならば{\det{A^{-1}}=1}しかありえないのでこれについても逆元が{\mathrm{SL}_n(\mathbb{Z})}の中にきちんと存在していることが言える。

*1:{M_n(K)}は成分がKの元によって構成されているn次正方行列全体の集合である。

ルベーグ積分の使用例①

概要

ルベーグ積分の使用例として、ある問題について解説しようと思います。

この問題は測度論の演習問題によく出る気がします。

問題

{(X,\mathcal{F},\mu)}を測度空間として,{f,g}を非負な可積分関数とする.

このとき,測度{\nu}を新たに

$$\nu (A)=\int_A g(x) d\mu(x),(A\in\mathcal{F})$$

と定めたとき,{\nu}が測度になることを示せ.

また,

$$\int_X f(x)d\nu (x)$$

を求めよ.

続きを読む