超数理能力問題~ロピタルの定理を用いて、この極限値を求めて下さい~
注意
ロピタルの定理を用いません
問題
超数理能力問題
$$\lim_{x\to\frac{\pi}{2}}\frac{-4x^2+\sqrt[\frac{\pi}{x}]{16\pi^4}+3e\cos{2x}\sin{2x}-3!\pi x-5\pi\sin{x}}{-2e^{\pi}\cos{(2x+\pi)}+2x^2-3\cdot 5^{\left(x-\frac{\pi}{2}\right)}-\pi x+3\sin{5x}+2e^{\left(x+\frac{\pi}{2}\right)}}$$
(一般大学生 正解率1%未満)
出典:日本No.1の頭脳王関西大会 7ジャンルの頭脳戦 超数理能力
方針
せっかくなのでこの場で一応言っておく。「ロピタルは入試では使えない」は迷信である。正確には「ロピタルの定理を使うためにはロピタルの定理が適用できる条件をすべて満たしているかを確認する必要がある」といったところだろう。正しく使えさえすれば、使っても問題ない。
しかし、その適用条件がややこしいし面倒くさいため、「使いたくない」というのが正直なところだ。
ということで、ここではロピタルの定理を使わない方法で解いてみることにした。
解答
まずという極限が扱いづらいので変換する。とおけばとなる。
分子については
$$4x^2=4\left(y+\frac{\pi}{2}\right)=(2y+\pi)^2=4y^2+4y\pi+\pi^2$$
$$\sqrt[\frac{\pi}{x}]{16\pi^4}=(16\pi^4)^{\frac{x}{\pi}}=(16\pi^4)^{\frac{y}{\pi}+\frac{1}{2}}=4\pi^2(16\pi^4)^{\frac{y}{\pi}}$$
$$3e\cos{2x}\sin{2x}=3e\cos{(2y+\pi)}\sin{(2y+\pi)}=3e\cos{2y}\sin{2y}=\frac{3e}{2}\sin{4y}$$
$$3!\pi x=6\pi\left(y+\frac{\pi}{2}\right)=6\pi y+3\pi^2$$
$$5\pi\sin{2x}=5\pi\sin{2y+\pi}=-5\pi\sin{2y}$$
分母については
$$-2e^{\pi}\cos{(2x+\pi)}=-2e^{\pi}\cos{(2y+2\pi)}=-2e^{\pi}\cos{2y}$$
$$2x^2=\frac{1}{2}(2y+\pi)^2=2y^2+2y\pi+\frac{1}{2}\pi^2$$
$$3\cdot 5^{\left(x-\frac{\pi}{2}\right)}=3\cdot 5^{y}$$
$$-\pi x=-\pi\left(y+\frac{\pi}{2}\right)=-\pi y-\frac{\pi^2}{2}$$
$$3\sin{5x}=3\sin{\left(5y+\frac{5\pi}{2}\right)}=3\sin{\left(5y+\frac{\pi}{2}\right)}=3\cos{5y}$$
$$2e^{x+\frac{\pi}{2}}=2e^{\pi}e^{y}$$
よって求める極限は
$$\lim_{y\to 0}\frac{-4y^2-4y\pi-\pi^2+4\pi^2(16\pi^4)^{y/\pi}+\frac{3e}{2}\sin{4y}-6\pi y-3\pi^2+5\pi \sin{2y}}{-2e^{\pi}\cos{2y}+2y^2+2y\pi+\frac{1}{2}\pi^2-3\cdot 5^y-\pi y-\frac{\pi^2}{2}+3\cos{5y}+2e^{\pi}e^y}$$
となる。
見やすいように少し変形すると(ここで、$a^x=e^{\log{(a)}x}$を使用している)
$$\lim_{y\to 0}\frac{4\pi^2\left(e^{\frac{4}{\pi}\log{(2\pi)}y}-1\right)-10\pi y+\frac{3e}{2}\sin{4y}+5\pi\sin{2y}-4y^2}{2e^{\pi}(e^y-1)+2e^{\pi}(1-\cos{2y})+\pi y-3(e^{\log{(5)}y}-1)-3(1-\cos{5y})+2y^2}$$
この形なら、$y\to 0$で0/0の不定形になっていることが比較的見えやすくなる。
また変形をしてみる
$$\lim_{y\to 0}\frac{4\pi^2\frac{e^{\frac{4}{\pi}\log{(2\pi)}y}-1}{y}-10\pi+\frac{3e}{2}\frac{\sin{4y}}{y}+5\pi\frac{\sin{2y}}{y}-4y}{2e^{\pi}\frac{e^y-1}{y}+2e^{\pi}\frac{1-\cos{2y}}{y}+\pi-3\frac{e^{\log{(5)}y}-1}{y}-3\frac{1-\cos{5y}}{y}+2y}$$
ここで、以下の極限の式を使う。基本公式なので証明は演習とする(便利な言葉だ)
ここでは実数の定数とする。
- $$\lim_{y\to 0}\frac{e^{ay}-1}{y}=a$$
- $$\lim_{y\to 0}\frac{\sin{ay}}{y}=a$$
- $$\lim_{y\to 0}\frac{1-\cos{ay}}{y}=0$$
$$\lim_{y\to 0}\frac{4\pi^2\frac{e^{\frac{4}{\pi}\log{(2\pi)}y}-1}{y}-10\pi+\frac{3e}{2}\frac{\sin{4y}}{y}+5\pi\frac{\sin{2y}}{y}-4y}{2e^{\pi}\frac{e^y-1}{y}+2e^{\pi}\frac{1-\cos{2y}}{y}+\pi-3\frac{e^{\log{(5)}y}-1}{y}-3\frac{1-\cos{5y}}{y}+2y}$$
$$=\frac{4\pi^2\frac{4}{\pi}\log{(2\pi)}-10\pi+\frac{3e}{2}4+5\pi\cdot 2-4\cdot 0}{2e^{\pi}\cdot 1+2e^{\pi}\cdot 0+\pi-3\log{5}-3\cdot 0+2\cdot 0}$$
$$=\frac{4\pi^2\frac{4}{\pi}\log{(2\pi)}-10\pi+\frac{3e}{2}4+5\pi\cdot 2}{2e^{\pi}+\pi-3\log{5}}$$
$$=\frac{16\pi\log{(2\pi)}-10\pi+6e+10\pi}{2e^{\pi}+\pi-3\log{5}}$$
$$=\frac{16\pi\log{(2\pi)}+6e}{2e^{\pi}+\pi-3\log{5}}$$
ここで、この極限操作が正当化されるためには分母が0でないことが必要である。
$$2e^{\pi}+\pi-3\log{5}>2\cdot 2^3+3-3\cdot 2=16+3-6=13>0$$
分母は正なので問題なし
よって求める答えは
$$\frac{16\pi\log{(2\pi)}+6e}{2e^{\pi}+\pi-3\log{5}}$$
である。
感想
何でも詰め込みまくればいいってもんじゃないぜ…
ただ、あえてロピタルを使わないことで問題の構造が少し見えたような気がした。ロピタルの定理は機械的な処理になりがちなので…
たぶんゴリゴリ微分計算するよりもこの方法が楽なのかもしれない?
収束定理が使えない例-その2
概要
ルベーグの収束定理が適用できない問題の例を紹介し、どうやって解くのかを説明する
問題
$$\lim_{R\to\infty}\int_{0}^{\pi/2}Re^{-R\sin{\theta}}d\theta$$
を求めよ。
考察
という置換をしてみる。するとより、
である。よって
$$\lim_{R\to\infty}\int_{0}^{1}Re^{-Rx}\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}$$
を求めればいいことになる。このときの被積分関数をとおくと
$$\frac{d}{dR}f_R(x)=e^{-Rx}-Rxe^{-Rx}=(1-Rx)e^{-Rx}$$
より、はを固定した時で最大となる。
よって、
$$\sup_{R\in (0,\infty)}|f_R(x)|=f_{1/x}(x)=\frac{1}{ex}\cdot \frac{1}{\sqrt{1-x^2}}$$
となる。これは付近でとなるため可積分関数ではない。よってルベーグの収束定理を適用することはできない。
解答
を任意に取る。このとき、
$$\int_{0}^{1}f_R(x)dx=\int_{0}^{\varepsilon}f_R(x)dx+\int_{\varepsilon}^{1}f_R(x)dx$$
の2つに分解してそれぞれの極限を計算する。
$$\int_{0}^{\varepsilon}f_R(x)dx$$
については部分積分をすると
$$\int_{0}^{\varepsilon}\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}Re^{-Rx}dx=\left[\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}(-e^{-Rx})\right]_{0}^{\varepsilon}+\int_{0}^{\varepsilon}\frac{x}{(1-x^2)^{3/2}}e^{-Rx}dx$$
$$=1-e^{-R\varepsilon}\frac{1}{\sqrt{1-\varepsilon^2}}+\int_{0}^{\varepsilon}\frac{x}{(1-x^2)^{3/2}}e^{-Rx}dx$$
となる。
ここで、
$$0\leq\int_{0}^{\varepsilon}\frac{x}{(1-x^2)^{3/2}}e^{-Rx}dx\leq \int_{0}^{\varepsilon}\frac{\varepsilon}{(1-\varepsilon^2)^{3/2}}e^{-Rx}dx$$
となるため、
$$\left|1-\int_{0}^{\varepsilon}f_R(x)dx\right|\leq e^{-R\varepsilon}\frac{1}{\sqrt{1-\varepsilon^2}}+\frac{\varepsilon}{(1-\varepsilon^2)^{3/2}}\cdot \frac{1-e^{-R\varepsilon}}{R}$$
となる。これのの極限を取ることで、結局
$$\lim_{R\to\infty}\int_{0}^{\varepsilon}f_R(x)dx=1$$
となる。
一方、
$$\left|\int_{\varepsilon}^{1}f_R(x)dx\right|\leq \int_{\varepsilon}^{1}Re^{-R\varepsilon}\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}$$
$$\leq \frac{\pi}{2}Re^{-R\varepsilon}$$
となるため、の極限を取ると
$$\lim_{R\to\infty}\int_{\varepsilon}^{1}f_R(x)dx=0$$
となる。
これらの結果を合わせることで、
$$\lim_{R\to\infty}f_R(x)dx=\lim_{R\to\infty}\int_{0}^{\varepsilon}f_R(x)dx+\lim_{R\to\infty}\int_{\varepsilon}^{1}f_R(x)dx=1+0=1$$
となるため、結局
$$\lim_{R\to\infty}\int_{0}^{1}Re^{-Rx}\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx=1$$
$$\lim_{R\to\infty}\int_{0}^{1}Re^{-R\sin{\theta}}d\theta=1$$
となる。
訂正情報
この記事は一度大幅な訂正されています。訂正前はでの積分の評価を別の方法でやっていて、
$$\int_{0}^{\varepsilon}Re^{-Rx}dx\leq \int_{0}^{\varepsilon}Re^{-Rx}\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx\leq \int_{0}^{\varepsilon}Re^{-Rx}\frac{1}{\sqrt{1-\varepsilon^2}}dx$$
から、
$$1-e^{-R\varepsilon}\leq \int_{0}^{\varepsilon}Re^{-Rx}\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx\leq\frac{1}{\sqrt{1-\varepsilon^2}}\left(1-e^{-R\varepsilon}\right)$$
となり、
$$1\leq \lim_{R\to\infty}\int_{0}^{1}f_R(x)dx\leq \frac{1}{\sqrt{1-\varepsilon^2}}$$
からの任意性より
$$\lim_{R\to\infty}\int_{0}^{1}f_R(x)dx=1$$
とする、といった方法でした。
しかしこの方法ではもとの式のでの極限の存在性を有耶無耶にしたまま議論を進めているのではという指摘を頂きました。(指摘ありがとうございます。)
そこからの極限が存在することを示すためにはどうすればいいかについて考えた結果、証明を一部書き換えたほうが早いということで、上記の証明に訂正されました。
収束定理が使えない例-その1
概要
ルベーグの収束定理を適用させるためには、任意の自然数nについて一様に可積分関数で上から抑えられなくてはいけない。それができないタイプの問題を紹介する。
問題
以下の極限を求めよ
$$\lim_{n\to\infty}\int_{0}^{1}\sqrt{1+n^2x^{2n-2}}dx$$
収束定理の判定
以降はとする。このとき、を具体的に計算することは難しいが、付近での挙動をすることが予測されるので、可積分関数で抑えるのは厳しいように見える。もしルベーグの収束定理が適用できるのならば、となるが、これは無限の扱いに困るため積分するのは厳しそうに見える。とにかく、この問題はルベーグの収束定理を使わないほうがいいだろうと思うことができる。
解法
以下の不等式を使う
$$\max\{1,nx^{n-1}\}\leq \sqrt{1+n^2x^{2n-2}}\leq \sqrt{1+2nx^{n-1}+n^2x^{2n-2}}=1+nx^{n-1}$$
よって
$$\int_{0}^{1}\max\{1,nx^{n-1}\}\leq \int_{0}^{1}f_n(x)dx\leq \int_{0}^{1}1+nx^{n-1}dx$$
となる。(ここで目標:はさみうちの原理を使う→左右の極限の値を確かめる)
左辺について、を、かつであるように定める。(中間値の定理より、そのようなは存在し、さらにの単調性から一意に定まることがわかる。)
$$\int_{0}^{1}\max\{1,nx^{n-1}\}dx=\int_{0}^{y_n}\max\{1,nx^{n-1}\}dx+\int_{y_n}^{1}\max\{1,nx^{n-1}\}dx$$
$$=\int_{0}^{y_n}dx+\int_{y_n}^{1}nx^{n-1}dx$$
$$=[x]_{0}^{y_n}+[x^n]_{y_n}^{1}=y_n+1-{y_n}^n$$
$$=\left(1-\frac{1}{n}\right)y_n+1$$
ここで、最後の等式はを使用した。
ここで、 であるため、
より、より、
よって左辺はで2に収束する
$$\int_{0}^{1}1+nx^{n-1}dx=[x+x^n]_{0}^{1}=2$$
より右辺の極限は2である
左右について、極限の値が等しいため、はさみうちの原理を適用することができる。
よって、
$$\lim_{n\to\infty}\int_{0}^{1}\sqrt{1+n^2x^{2n-2}}dx=2$$
となる。
補足
これはのでの曲線の長さについて考えている。
これをとしてみて答えが2になったということは、のグラフはというような折れ線にで近くなっていくが(この「近い」をどう定義するかが重要である。うまく定義できないとこの議論は曖昧になる。)、結果的に長さの極限は「極限の形」の長さに等しくなってしまった、ということになる。それはたまたまかもしれないし、極限(位相構造)をうまく定義すれば必然性が分かるのかもしれない。
実数とは何か
導入
と堂々巡りになってしまうようでは良くないので、実数とは何かについて説明していこう。
余談
ところで、高校数学では堂々巡りの定義をしているということは無いようである。実際には「実数というものは無限小数全体の集合」であり、「無理数は循環しない無限小数」という扱いをしているっぽい。
ちなみにこの無理数の定義が正しいことは「有理数⇔整数,有限小数,循環小数」を示せば確認することができる。過去記事参照
ちなみに上記の記事も今から説明する実数の定義を前提として書かれている。無限小数全体の空間を定義して形式的な演算を考える手法もありそうだが、とりあえず以降ではメジャーな定義について紹介しようと思う。
実数と有理数との違い
一言で言えば完備かどうかである。実数は完備だが有理数は完備ではない。完備については今から説明する。
完備とはざっくり説明すると「ある数列の収束先が存在することを保証する」である。ここで、「ある数列」とは何でも良いわけではなく、例えばみたいなのはダメである。キーワードを加えて補足すると「コーシー列の収束先が存在することを保証する」となる。
コーシー列とは定義を書くとこうなる。
$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists N\in\mathbb{N},n,m\geq N\Rightarrow |a_n-a_m|\lt \varepsilon$$
…ここでもある程度詳しく解説するが、ε-δ論法やε-N論法に慣れるという意識が必要だろう。
ここで、収束する数列は必ずコーシー列になることがわかる。
ならば、に対して定めたについて、ならば
$$|a_n-\alpha|\lt \varepsilon/2,|a_m-\alpha|\lt\varepsilon/2$$が言えるので、三角不等式から
$$|a_n-a_m|=|(a_n-\alpha)-(a_m-\alpha)|\leq |a_n-\alpha|+|a_m-\alpha|\lt \varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon$$
となる。
完備性が言いたいのはこれの逆、すなわち「コーシー列なら収束する」である。
実数が何かはまだ分からないが、少なくとも有理数全体の集合はこの性質を満たしてはいない。
例えばとしたとき、ならば
$$|a_n-a_m|=\frac{1}{(m+1)^2}+\cdots+\frac{1}{n^2}\leq \frac{1}{m(m+1)}+\cdots+\frac{1}{n(n-1)}=\frac{1}{m}-\frac{1}{n}\lt \frac{1}{N}$$
より、となるように「に対してを定めれば」コーシー列になることがわかる。ネタバレするとこれはバーゼル問題と言ってはに収束するのだけど、何が問題なのかと言うと「各項が有理数で構成されている(コーシー列であるような)数列がある有理数の値に収束しない」ということである。とりあえず実数では有理数で起きたこのような問題を回避したいのである。とりあえずは「各項が実数で構成されている(コーシー列であるような)数列は必ずある実数の値に収束する」となるようなことを目指したいのである。そのために完備化という作業をするのである。有理数から実数に世界を広げることで先程の例に出てきた等も新たに仲間に加わることで、数列の収束先が保証されているような、都合の良い世界ができるわけである。これは以降の解析学の分野をやる上で必要不可欠なものである。
実数の構成と条件を満たしていることの証明
ここで問題が発生する。「実数は有理数を完備化したもの、では実際に有理数を完備化したような集合を具体的に構成するようなことはできるのか?」
つまりは、「要求する条件をすべて満たしているような、都合のいい相手は存在するのだろうか?」みたいな疑問である。これについてはこれから説明するが、結論から言えば存在する。今からは具体的に「たくさんの条件をすべて満たしているような理想的な相手=実数」を具体的に構成し、それが本当に要求する条件を満たしているか見ていこう。
実数の構成方法
まず、有理数列からなる集合を持ってくる。この集合の元はというような表記ができる。また、これは「からへの写像全体の集合」と考えることができるので、(つまり、に対してであるといった感じである。)とでも書いておく。
さて、はこれの部分集合となる。具体的に書くと
$$X:=\{(a_n)_{n=1}^{\infty}\in \mathrm{Map}(\mathbb{N},\mathbb{Q})|(a_n)_{n=1}^{\infty}はコーシー列\}$$
であり、先程のコーシー列の定義を入れると
$$X:=\left\{(a_n)_{n=1}^{\infty}\in \mathrm{Map}(\mathbb{N},\mathbb{Q})\middle| \forall \varepsilon \gt 0,\exists N\in \mathbb{N},n,m\geq N\Rightarrow |a_n-a_m|\lt \varepsilon\right\}$$
となる。同値関係については以下のように定義する。
$$ (a_n)_{n=1}^{\infty}\sim (b_n)_{n=1}^{\infty}\Leftrightarrow \lim_{n\to\infty}(a_n-b_n)=0$$
ε-δ論法を使って厳密に書けば以下の通りになる。
$$ (a_n)_{n=1}^{\infty}\sim (b_n)_{n=1}^{\infty}\Leftrightarrow \left(\forall \varepsilon \gt 0,\exists N\in\mathbb{N},n\geq N\Rightarrow |a_n-b_n|\lt\varepsilon \right)$$
ここで、実数とは同値類のことを言うのである!
注:同値類の定義については以下の記事を参照
これを実数のよく使われる記号を使って表すと、「」と書ける。
以降では、の元は同値類ということでというような表記をすることにしよう。
実数の性質を満たしているかの確認するためには、①可換体、②全順序集合、③完備性の3つを示すのが必要である。ここで、①と②は有理数でも満たしている性質なのでかいつまんで説明する。
可換体であることの証明
この集合に対して、四則演算は以下のように定義する。
$$[(a_n)_{n=1}^{\infty}]+[(b_n)_{n=1}^{\infty}]:=[(a_n+b_n)_{n=1}^{\infty}]$$
$$[(a_n)_{n=1}^{\infty}]-[(b_n)_{n=1}^{\infty}]:=[(a_n-b_n)_{n=1}^{\infty}]$$
$$[(a_n)_{n=1}^{\infty}]\times[(b_n)_{n=1}^{\infty}]:=[(a_n\times b_n)_{n=1}^{\infty}]$$
$$[(a_n)_{n=1}^{\infty}]\div[(b_n)_{n=1}^{\infty}]:=[(a_n\div b_n)_{n=1}^{\infty}]$$
ただし4つめの割り算においては0ではない…と言いたいところだがまずは0を定めよう。
一般に有理数に対して、と定めればよい。つまり、有理数に対しては「各項がであるような、が永遠に続く数列」を具体的に持ってきて、その同値類を考えれば良いことになる。(用語を使うと、が永遠に続く数列を代表元に置く、という表記になる。)
結局の所「が0でない」というのはがと同値ではない。つまりということになる。
さて、この定義だけでは不十分で、さらにwell-defined性の証明もしなくてはいけない。
具体的にはかつならば、
$$[(a_n)_{n=1}^{\infty}]+[(x_n)_{n=1}^{\infty}]=[(b_n)_{n=1}^{\infty}]+[(y_n)_{n=1}^{\infty}]$$
でなくてはいけないので、つまりは
$$[(a_n+x_n)_{n=1}^{\infty}]=[(b_n+y_n)_{n=1}^{\infty}]$$
を満たしていなくてはいけない。
これを示すためには
$$(a_n+x_n)_{n=1}^{\infty}\sim (b_n+y_n)_{n=1}^{\infty}$$
を示すことになるが、これはと同値であり、aとb,xとyの同値性から導ける。引き算については同じ。
掛け算についてはとして
$$\lim_{n\to\infty}a_n(x_n-y_n)+(a_n-b_n)y_n=\left(\lim_{n\to\infty}a_n\right)\times 0+0\times\left(\lim_{n\to\infty}y_n\right)=0$$よりOKである。
割り算についてはとして、について掛け算で示したのと同じようにすればOK
ところで、先程の証明には極限が四則演算を保存することの性質が使われている。
$$\lim_{n\to\infty}(a_n+b_n)=\lim_{n\to\infty}a_n+\lim_{n\to\infty}b_n,\lim_{n\to\infty}(a_n-b_n)=\lim_{n\to\infty}a_n-\lim_{n\to\infty}b_n,\ldots$$
あと暗黙で使われていたものといえば、の元は全て有界な数列であることと、はさみうちの原理であろう。両方ともに掛け算の段階で暗黙に使われていた。
ところで、 この性質は実数の完備性に関係なく成立するため、循環論法を心配する必要はない。そして今までに示したことは演算がwell-definedであることだけで、これ以降に分配法則や結合法則などを示していかなければいけない。これは省略するが、同じような方法で行けるはずである。*2
全順序であることの証明
まずはに順序関係を定める。
に対してであるとは、
$$A\lt B\Leftrightarrow \left(\exists \varepsilon\gt 0,\exists N\in \mathbb{N},n\geq N\Rightarrow b_n-a_n\geq \varepsilon\right)$$
また、であるとは、「または」と定める。
これもまたwell-defined性を示す必要がある。
について代表元を別に取ってきても同じように性質を持っているかを確認する必要がある。
まずは以下のような性質が成り立っている。
$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists N_1=N_1(\varepsilon)\in \mathbb{N},n\geq N_1\Rightarrow |a_n-x_n|\lt \varepsilon$$
$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists N_2=N_2(\varepsilon)\in \mathbb{N},n\geq N_2\Rightarrow |b_n-y_n|\lt \varepsilon$$
の定義に出てきたを持ってくる。
ここで、と定めると,とおいたとき、ならば
$$y_n-x_n=(y_n-b_n)+(b_n-a_n)+(a_n-x_n)\geq (-\varepsilon/3)+\varepsilon+(-\varepsilon/3)=\varepsilon/3$$
となるため、とおくと、と定めれば、同じように真の大小関係についての性質を満たす。よっての定義がwell-definedであることが示された。
可換体のときと同じように、これ以降にも全順序や順序が和について保存されることなどの証明をすると晴れて順序についても実数に満たされるべき要素が満たされていることがわかる。これも長くなるので省略する。
完備性についての証明
ここからが本番である。ちなみにコーシー列の定義には絶対値が出てくるが、その絶対値を定義するためにはまずは順序を定めなければいけないので、今までの解説は重要なものであった。本当は可換体+全順序の実数16の性質全てについて証明がしたいところだったが、泣く泣く省略することにした。
収束性の定義をしよう。
上の点列がに収束とは以下のように定義をする。
$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists M\in\mathbb{N},m\geq M\Rightarrow |[(a_n^{(m)}-b_n)_{n=1}^{\infty}]|\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]$$
絶対値についての部分を書き換えると以下のようになる。
$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists M\in\mathbb{N},m\geq M\Rightarrow [(a_n^{(m)}-b_n)_{n=1}^{\infty}]\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]\mathrm{and} [(b_n-a_n^{(m)})_{n=1}^{\infty}]\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]$$
同じようにコーシー列の定義もしよう。
上の点列がコーシー列であるとは以下のように定義をする。
$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists M\in\mathbb{N},m_1,m_2\geq M\Rightarrow |[(a_n^{(m_1)}-a_n^{(m_2)})_{n=1}^{\infty}]|\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]$$
同じように絶対値を言い換えると
$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists M\in\mathbb{N},m_1,m_2\geq M\Rightarrow [(a_n^{(m_1)}-a_n^{(m_2)})_{n=1}^{\infty}]\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]\mathrm{and}[(a_n^{(m_2)}-a_n^{(m_1)})_{n=1}^{\infty}]\lt [(\varepsilon)_{n=1}^{\infty}]$$
となる。
目標としては「コーシー列が収束すること」を示したいので、そのためには収束先(の代表元)を具体的に構成し、それが実際に収束先になっていることを示すこととなる。
以降でははコーシー列となっている。
まずはを固定しよう(それに対応しても固定されて定まる。)すると任意のに対して、「あるが存在して、ならば」が成立することになる。
これと同時に、はについてコーシー列となるため、*4以下が成立する。
$$\forall \varepsilon_0\gt 0 \exists N_m=N_m(\varepsilon_0),n_x,n_y\geq N_m\Rightarrow |a_{n_x}^{(m)}-a_{n_y}^{(m)}|\lt \varepsilon_0$$
ここで、実際に収束先となるようなを構成する。実際に書き下ろすと以下のようになる。(天下り注意)
$$b_n=a_{c_n}^{(n)},c_n=N_n\left(\frac{1}{n}\right)$$
はの中から1つ項を取ってくるように構成する。そしてその取り方はのでの収束する速度に依存している。これが実際に収束先の代表元の1つになっていることを示そう。
今から示したいことはがでに収束していることで、これをεなどを使って表すと以下の通りとなる。
今から示すもの:
$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists M_0\in\mathbb{N},m\geq M_0\Rightarrow \left[\exists \delta_m\gt 0,\exists K_m\in\mathbb{N},n\geq K_m\Rightarrow |a_n^{(m)}-a_{c_n}^{(n)}|\lt \varepsilon-\delta_m\right]$$
(注:の順序を定義する時に出てきた記号εが、ここでは記号δに置き換わっている)
以下証明:
を任意に取ってくる。このとき、
$$M_0=\max\left\{M\left(\frac{\varepsilon}{3}\right),\mathrm{ceil}\left(\frac{3}{\varepsilon}\right)\right\}$$
と定める。*5
はのの収束する速度に依存している。この時、なる任意のに対して、
$$\delta_m=\frac{\varepsilon}{3}-\frac{1}{m}$$
$$K_m=\max\left\{m,N_m\left(\frac{\varepsilon}{3}\right)\right\}$$
と定める。ここで、となっている。
ここで、を任意に取ってくる。
また、を
$$k=\max\left\{N_m\left(\frac{\varepsilon}{3}\right),N(n,m),c_n\right\}$$
と定める。
このとき、三角不等式より
$$|a_n^{(m)}-a_{c_n}^{(n)}|\leq |a_n^{(m)}-a_k^{(m)}|+|a_k^{(m)}-a_k^{(n)}|+|a_k^{(n)}-a_{c_n}^{n}|$$
となる。ここで、
・より、となる。
・であり、これに対してが存在して,このときであるため、
・より、となる。最後の不等式はから出てくる。
これらの不等式評価により、
$$|a_n^{(m)}-a_k^{(m)}|+|a_k^{(m)}-a_k^{(n)}|+|a_k^{(n)}-a_{c_n}^{n}|\lt \frac{\varepsilon}{3}+\frac{\varepsilon}{3}+\frac{1}{m}$$
となるため、
$$|a_n^{(m)}-a_{c_n}^{(n)}|\lt \frac{\varepsilon}{3}+\frac{\varepsilon}{3}+\frac{1}{m}\leq \varepsilon-\delta_m $$
となる。よって示したいものを示すことができた。
あとがき
…と、(途中省略をするようなことがあったけど)このような長い道のりを通ってくることで無事実数を構成することができて、「都合のいい相手」が無事に存在することが分かった。実数とは何か、というという問いは数学をやる上でもあまり気にしないものだが、実際に考えてみると思ったより奥が深いものであることがわかる。たまには常識を疑う姿勢を持つのも必要なのかもしれない。
*1: 無理数の定義を単に「有理数ではないもの」とするとリンゴ、バナナ、人間や地球も無理数になってしまって良くないので少なくとも「実数のうち有理数ではないもの」としなくてはいけない
*2:ちなみに可換体であることを示すためには、①和について可換群であること②積について可換群であること③分配法則を満たすこと④1≠0であることの4つを示す必要がある。可換群であることは「結合法則、単位元の存在、逆元の存在、交換法則」の4つなので合計で4+4+1+1=10個の性質を示すことになる。
*3:この変換は、xの絶対値が「xと-xのうちの大きい方」と等しくなることと、max(x,y)<zは「x<zかつy<z」とも同値になることから言える。
*4:そもそも全体集合がコーシー列全体の集合としているため当然のこと
*5:ceilは天井関数。小数点以下切り上げをして整数にする関数である。
無理数の判定法
概要
任意のに対して
$$0\lt \left|\alpha-\frac{q}{p}\right|\lt \frac{\varepsilon}{p}$$
を満たす有理数が存在することである
これについて詳しく解説していこうと思います。
必要性の証明
が有理数であるときに条件を満たさないことを示せばOK(つまり対偶を示す)
という分数表記で書けるとする。ここでは整数で特には0でない。ここで例の不等式が満たされていると仮定すると
$$0\lt \left|\frac{b}{a}-\frac{q}{p}\right|\lt \frac{\varepsilon}{p}$$
すべての辺を倍すると
$$0\lt\left|\frac{bp-aq}{a}\right|\lt\varepsilon$$
ここで、中辺は倍すると整数になることが分かる。とすれば
$$0\lt |bp-aq|\lt \frac{1}{2}$$
となるが、は0より大きく1/2より小さい整数となるため矛盾する。
この矛盾は「例の不等式が満たされていると仮定」したことによって起こるため、つまり条件は満たされないということが分かる。
十分性の証明
が無理数と仮定する。このとき、を満たす正の整数が存在する。(ここで、はの小数部分である。)以下証明(注:これはクロネッカーの稠密定理の特殊な場合である。)
==================
となるような自然数を取ってくる。
このとき、について考えるとこれらはどれもの個の区間のどれかに入っている。個のものを個のものに対応させるということなので、鳩ノ巣論法によって、1つの区間に2つ以上入っていることになる。
つまりなるがあって
$$\frac{k}{N}\lt\{i\alpha\},\{j\alpha\}\lt \frac{k+1}{N}$$
となる。(注:は無理数なのでと等しくなるようなことはない)
ここで、ならば、
$$0\lt \{(j-i)\alpha\}\lt \frac{1}{N}\lt \varepsilon$$よりとすれば条件を満たす
逆にならば、
$$1-\frac{1}{N}\lt \{(j-i)\alpha\}\lt 1$$
となるが、はを増やしていっても未満のペースで減っていくため、を増やしていけばいつかは
$$0\lt \{k(j-i)\alpha\}\lt \frac{1}{N}\lt\varepsilon$$よりとすれば条件を満たす。
の場合はありえない。が整数ならばは有理数となるからである。
==================
以上の議論からを満たす正の整数が存在する。
よってとなるように整数を定めることができる。よって
$$0\lt |n\alpha-m|\lt \varepsilon$$
は0ではないので割ることができる。よって
$$0\lt \left|\alpha-\frac{m}{n}\right|\lt \frac{\varepsilon}{n}$$
よってとすればOK。
使用例1(ネイピア数eの場合)
以下の不等式が成り立つ。
$$\frac{1}{(n+1)!}\lt e-\sum_{k=0}^{n}\frac{1}{k!}\lt \frac{1}{n\cdot n!}$$
本筋からあまり逸れないように証明はかいつまんで行う。
$$e-\sum_{k=0}^{n}\frac{1}{k!}=\frac{1}{(n+1)!}+\frac{1}{(n+2)!}+\cdots$$
となるが、左辺の不等式はより明らか。右辺の不等式については
$$\frac{1}{(n+1)!}+\frac{1}{(n+2)!}+\cdots\lt \frac{1}{(n+1)\cdot n!}+\frac{1}{(n+1)^2\cdot n!}+\cdots=\frac{1}{n!}\cdot \frac{\frac{1}{n+1}}{1-\frac{1}{n+1}}=\frac{1}{n\cdot n!}$$
となる。
ここで、とすると、は整数であるためは整数となる。このとき、上記の不等式の両辺を倍すると
$$\frac{1}{n+1}\lt n!e-a_n\lt \frac{1}{n}$$
となる。任意のと取ってきたとき、となるような自然数を取ってくると
$$0\lt \left|e-\frac{a_N}{N!}\right|\lt \frac{1}{N\cdot N!}\lt\frac{\varepsilon}{N!}$$
となるため、とすると条件が満たされるため、が無理数であることが分かる。
使用例2(√2の場合)
目標としてはペル方程式の自然数解を生成したい。
数列を以下のように定める。
$$a_0=1,b_0=0,a_{n+1}=3a_n+4b_n,b_{n+1}=2a_n+3b_n$$
ここでについて考える
$$a_{n+1}^2-2b_{n+1}^2=(3a_n+4b_n)^2-2(2a_n+3b_n)^2$$
$$=9a_n^2+16b_n^2+24a_nb_n-8a_n^2-18b_n^2-24a_nb_n$$
$$=9a_n^2+16b_n^2-8a_n^2-18b_n^2=a_n^2-2b_n^2$$
となるため、
$$a_n^2-2b_n^2=a_{n-1}^2-2b_{n-1}^2=\cdots=a_0^2-2b_0^2=1$$
となる。
よって、はペル方程式の解である。
以上から
$$(a_n^2-2b_n^2)=(a_n-\sqrt{2}b_n)(a_n+\sqrt{2}{b_n})=1$$
となる。
ここで、かつであるため、
$$(a_n+\sqrt{2}b_n)=(3+2\sqrt{2})^{n}$$である。よってより
$$0\lt a_n-\sqrt{2}b_n=\frac{1}{a_n+\sqrt{2}b_n}= \frac{1}{(3+2\sqrt{2})^n}\lt \frac{1}{5^n}$$
となる。
よって、を任意に取ってきたとき、
となるような自然数を取ってきたとき
$$0\lt |a_N-\sqrt{2}b_N|\lt \frac{1}{5^N}\lt \varepsilon$$
となるため、が十分大きいときにとなるため
$$0\lt \left|\sqrt{2}-\frac{a_N}{b_N}\right|\lt \frac{\varepsilon}{b_N}$$
となるため、に対してと定めることによって条件が満たされるため、が無理数であることが分かる。
ε-δ論法とε-N論法
概要
ε-δ論法,ε-N論法は極限の概念を厳密に定義したものである。
解析学をやる上での基本中の基本である
定義
極限については数列の極限と関数の極限の2種類がある
・数列の極限に対してはε-N論法
・関数の極限に対してはε-δ論法
で極限が定義される。
数列の極限(ε-N論法)
とは
$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists N\in \mathbb{N},n\geq N\Rightarrow |a_n-\alpha|\lt\varepsilon$$
というように言い換えることができる。
関数の極限(ε-δ論法)
とは以下のように言い換えることができる。
$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists \delta\gt 0,|x-a|\lt \delta\Rightarrow |f(x)-b|\lt\varepsilon$$
特に関数がで連続であることはであることと同値なのでこれは
$$\forall \varepsilon \gt 0,\exists \delta\gt 0,|x-a|\lt \delta\Rightarrow |f(x)-f(a)|\lt\varepsilon$$
と表記される。これはよく使う気がする。
難しい?
これらはよく大学数学最初の難関とされているらしい。確かに高校数学までしか経験してない場合は初見バイバイな見た目をしている。そしてこれは大学1年の最初にやるような内容なので「大学生活あるあるネタ」みたいな感じでよく話題になる。
しかしε-δ論法やε-N論法そのものが難しいと言うよりは、論理式に慣れてないから難しく感じると思っている。
には「全てのについて~」、には「あるがあって~」という意味がある。
そしてそれらには順番がある。と書いたが、ではダメなのである。
ポイントは従属関係である。δはεに依存している。δの値はεに対応して決まっているということである。よってやのように関数のような表記をする派閥もある。最初のうちはこのように書けば分かりやすいかもしれない。
…とにかく、論理式に慣れることはε-δ論法やε-N論法以前のような解析学だけの問題ではなく、代数学や幾何学でもこのような表記は出てくる。大学数学を学習する上では絶対必要なものだろう。
結局の所対処法はひとつだけである。慣れろ 以上 おしまい
ということで以降はこれらの論法に慣れるために例題を載せようと思う。
例題
ここ以降は定義の言い換えによって丁寧に説明したつもりである。もしこれが小泉進〇郎構文に見えるのなら、その場合はある程度の理解ができていると言える。
有界で単調増加な数列は収束する
「有界な集合には上限が存在する」ということを証明に使う。
チェザロ平均
としたとき、を示せ
証明
を任意に取ってくる。
このとき、に対応してある自然数が存在する。
その自然数は「以上の自然数について」という性質を持っている。
このとき、として、
$$\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}a_k-\alpha=\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}(a_k-\alpha)$$
$$=\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{N-1}(a_k-\alpha)+\frac{1}{n}\sum_{k=N}^{n}(a_k-\alpha)$$
より、三角不等式を適用させると
$$\left|\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}a_k-\alpha\right|\leq \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{N-1}|a_k-\alpha|+\frac{1}{n}\sum_{k=N}^{n}|a_k-\alpha|$$
ここで、してε-N論法の仮定を適用させると
$$\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{N-1}|a_k-\alpha|+\frac{1}{n}\sum_{k=N}^{n}|a_k-\alpha|\leq \frac{1}{n}A+\frac{1}{n}\sum_{k=N}^{n}\varepsilon/2$$
$$\frac{1}{n}A+\frac{1}{n}\sum_{k=N}^{n}\varepsilon/2\leq \frac{A}{n}+\varepsilon/2$$
ここで、をとなるように取る。
このとき、ならば
となるため、のときに
$$\leq \frac{A}{n}+\varepsilon/2\lt\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon$$
となる。
よってに対して自然数を定めることができて、
このに対してのときに
$$\left|\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}a_k-\alpha\right|\lt \varepsilon$$
となる。よって
$$\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}a_k=\alpha$$
となることが示された。
はさみうちの原理
数列が不等式を満たしていて、
を満たしているとき
$$\lim_{n\to\infty}b_n=k$$
となる。
証明は実は過去記事にあった… (散らかっているので整備しなくては…)
ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理
数列が有界、つまり常にとなる場合、収束する部分列を持つ(=という自然数の数列が存在して、がある値に収束する)
この証明には区間縮小法を使っている。区間縮小法がうまく使えることの説明としては
・区間の上限と下限の列を使うことではさみうちの原理が適用できる
・収束することについては「有界で単調増加な数列は収束する」を使う
・収束値が等しいことについては極限の線形性を使う
という感じである。
連続関数と数列の極限
として、という連続関数があるとする。
このとき、という数列はを満たしているとする(このときであるものとする*1)
このとき、
$$\lim_{n\to\infty}f(x_n)=f(c)$$
となる。
証明
を任意に取ってくると、それに対応してあるが取れる。このについては
$$|x-c|\lt \delta\Rightarrow |f(x)-f(c)|\lt \varepsilon$$となる。
また、このに対応してあるを取ることができる。このについては
$$n\geq N\Rightarrow |x_n-c|\lt\delta$$
となる。
よってに対応して(を経由して)という自然数を定めることができた。このについてはのときに
$$|x_n-c|\lt \delta$$となるため、
$$|f(x_n)-f(c)|\lt\varepsilon$$
となる。
よってとなることが示された。
合成関数の連続性
とする。このときとしたとき、
を合成関数として定める。つまりとなる。
このとき、が連続ならばも連続である。
証明
を任意に取ってくる。
このとき、に対応してあるを取ってくることができて
$$|p-q|\lt\delta_0\Rightarrow |g(p)-g(q)|\lt \varepsilon$$
となる。
また、に対応してあるを取ってくることができる。このについては
$$|x-y|\lt \delta \Rightarrow |f(x)-f(y)|\lt \delta_0$$
となる。
結局の所に対応してを取ってくることができて
ならばとなってとなるため、
つまりが連続であることが示された。
中間値の定理
この記事での証明は区間縮小法を使っている。これらに加えて
連続関数と数列の極限についての関係を使っている。
最大値最小値の定理
有界閉区間上で定義された連続関数は最大値と最小値を持つというものである。
まとめ
ε-N論法やε-δ論法は大学数学の最初の難関として知られているが、対処法としては慣れることが重要である。そして慣れるためにはいくつかの例題が解けるようになるのが重要だろう。
*1:実際は仮定するまでもなくこうなる